第175話 夜空を見上げる父の顔
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とも呼べる貴殿の顔を見るまでは、あのお方は常に戦々恐々としておられた」
彼の口から語られるダウゥ姫は、俺が見た彼女の印象からは掛け離れたものだった。
しかし、彼女の境遇を考えればありえない話ではない。外国をろくに知らない彼女にとって、未知の国に住む「知人に似た男」という存在は大きいのだろう。現地に知る者や頼る者がほとんどいない、という状況ならばなおさらだ。
何かと俺に突っ掛かってばかりの彼女だったが……ああ見えて、本当は構って欲しかったのだろうか。
「――だが、私達の戦いが避けられないことも事実。貴殿が我が子と同じ姿をしていようと、『瀧上凱樹を倒した日本人』には変わりない。私は姫様を故郷に帰すためにも、貴殿に勝たねばならんのだ」
「その帰した先の故郷が墓場とわかっていて、みすみす行かせるほど俺は親切じゃない。そう簡単に、死なせてくれるとは思わないこった」
「承知している。……このような事情さえなければ、貴殿と戦うことなどありえなかっただろうが、な」
ジェリバン将軍は視線を落とすと、俺と目を合わせないままゆっくりと立ち上がる。そろそろ帰るつもりなのだろう。
俺も、明日は最後の特訓が控えている。いい加減に帰って寝なきゃ、翌日に響きかねない。
「――日本の悪鬼は、瀧上凱樹ただ一人。日本人全てが、仇敵にはなりえない。それはカズマサ殿が証明してくれたことだ。……しかし、まさか私の息子と瓜二つの少年が、あの瀧上凱樹を討ち取ってしまった……とはな」
「国のために戦って死んだ、あんたの息子と比べられても困る。俺は、単に顔が似てるってだけさ」
「いや……本当にそれだけならば、姫様が憎んでいるはずの『日本人』である貴殿に、あそこまで気を許されるはずがない。貴殿には――何かの運命を感ずにはいられんな」
俺は将軍に続く形でベンチから立ち上がり、そこでようやく彼と目線が交わった。
そして、その瞬間の彼は――「父親」のように、慈しむ面持ちで俺を見ているようだった。月明かりを背に浴び、影に隠れていても、その眼差しが見えなくなることはない。
「だが、手を抜くつもりはない。一人の戦士として、決闘には真摯に臨ませて貰う」
「……ああ」
しかし、踵を返して向けられた背に、その温もりはない。あるのは戦士として戦場に赴く、荘厳な威風だけだ。……浴衣だけど。
彼は直球な捨て台詞を残すと、静かにその場を立ち去って行く。
――そしてその背中を見つめ、俺も腹を括った。あの穏やかな彼の姿は、決闘が終わるまで頭から離しておくとしよう。
今の俺達は、譲れないものを賭けて戦う敵同士。そのけじめは、付けておくべきだ。
「あんたの息子もきっと、故郷で仲良く死んで欲しい、とは思わないだろうよ」
彼が姿を消し、誰もいな
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