第174話 海底の影と月夜の再会
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せないけん……」
「あら、どうして?」
「ダスカリアンの二人が来る少し前の時な。アタシが早めに部室に行っとったら……梢先輩、素っ裸の状態で大事なところだけリボンで隠して、鏡の前でやらしいポーズ決めとったんや。鮎子も止めるどころか、何か感心しとるみたいにメモ取りよったし……あの二人の感性に任せとったら、龍太ん家が大変なことになってまうで」
「うわぁ……」
「何を考えてるのか邪推してしまう自分が嫌になりそうだ……」
――だが、今は決闘のため、敢えて誕生日のことは頭から離そうと思う。久水先輩の暴走を、時間を掛けて止める意味でも。
俺は部室で起きていたピンク色の非常事態を想像し、救芽井と二人で頭を抱えながら、人知れずそう誓うのだった。
それから、放課後を迎えた俺達は「一煉寺」へと向かい、そこで再び修練に臨む。日を追うごとにその内容は厳しさを増し、涼しげな夜中でも俺の汗が止まることはなかった。
それが終わっても、相変わらずの道衣争奪戦までもが激しさを増したり、入浴中に久水先輩がタオルも巻かずに乱入してきたり。そんな面倒ごとが絶え間無く続きはしたが、何とか今日も乗り切ることが出来た。
その後、食事も入浴も洗濯も終えた俺は、眠りにつく前に散歩に繰り出していた。再び夜道を歩く俺の頭上で、満月の光が穏やかに道を照らしている。
普段は家の周りを少しうろつく程度だったのだが……今回は、ちょっとだけ遠出だ。
俺は夜空を見上げながら、ゆっくりと目的地へ歩を進めていった。
たどり着いた先は――昨夜の空地。ダウゥ姫の愛猫、グレートイスカンダルの住家だ。
あれから、あの子猫は元気にやっているのか。それがふと気になり、気づけばここへ足が向かうようになっていたのである。
「……ん」
そこへ、静かに響いて来る子猫の鳴き声。どうやら、今夜は特に抜け出すこともなく大人しくしていたようだな。
俺はその声に誘われるように、グレートイスカンダルが住む段ボールへ向かった。段ボールの中から、顔をひょこっと出している虎模様の子猫が見える。
段ボールの周りは綺麗にされており、念入りに手入れされた跡が伺えた。恐らく、彼女がしっかり面倒を見た後なのだろう。
ふと、グレートイスカンダルと目が合う――が、特に向こうは警戒することもなく、俺をじっと見つめていた。
……この子の飼い主は、いずれここから居なくなってしまうだろう。それまでに、新しい引き取り先を探さなくてはならないが……果たしてこの子は、そこに馴染めるのだろうか。
それが少しだけ心配になり、気づけば俺はグレートイスカンダルの毛並みを静かに撫でていた。まるで、今日までの苦労を労うかのように。
この子も、特にその愛撫に反発することなく、俺の掌を受け入れていた―
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