第173話 花淵の血、一煉寺の拳
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ちゃんを授かったけど、次の奥さん――ひい祖母ちゃんも亡くなって、親父が生まれた頃にひい祖父ちゃんも……だったよな。俺も、祖父ちゃんの顔は見れず仕舞いだった」
「そうだな。お前が生まれて間もない頃、祖父の龍巌も病に倒れ、この世を去った。俺達の遺伝子には、孫の成長を見守れない呪いでも掛かっているのかも知れん」
自嘲気味に笑みを浮かべ、開いた障子の先を見詰める親父の背は、その大きさにも関わらず「寂しさ」を湛えているかのように映る。兄貴のエロゲー趣味には反対していたような親父が、俺の周りに女の子がたくさん居る事実には大して口を出さない理由が、少しだけ見えたような気がした。
「その不幸を背負った上でも、我が父と祖父は『敵を打ち倒す』ことを追求する拳法を目指した。人々と助け合う――『自他共楽』を尊ぶ少林寺拳法本来の理念に背いてでも、な」
「この家なりの鍛え方はそうだったのかも知れないが……兄貴に教わった拳法は、そんなにイビツなもんじゃなかったと思うぜ」
「拳が向かう先を選ぶのは、拳を握る者の心だ。お前がそう思うなら、そう信じても構わん。だが、お前はこの歪んだ拳法の家に生まれながら、武力を求めぬ『花淵』の血に沿う生き方を選べる男だ。俺がこの寺を去ったのも、龍亮がお前を守るためだけに拳法を学んだのも、全ては『一煉寺』の力を消し去り、『花淵』の本懐を取り戻すためだったのかも知れん。本当なら、お前は戦うことはおろか、拳法に触れることすら望まれてはいなかったのだからな」
――親父の言う通り、俺は四年前までは拳法に関わることなく、普通の子供として暮らしていた。
三年前の事件がなければ、自分の家系の実態を知ることもなかったのかも知れない。
母さんに貰った俺の名前には、「拳法に頼らずに太く逞しい子に育つ」という願いがあった。
それに真っ向から背いてしまった俺に残された、名前負けにならない道。それが、着鎧甲冑を使うレスキューヒーローという世界なのだ。
戦いだけを専門としない生き方を選ぶことで、俺は少しでも母さんの願いに応えようとしたのかも知れない。自分自身の夢を叶いたい気持ちだけでは、ここまでたどり着くことはなかったはずだ。
「……『花淵』の名は絶え、血だけが残った。そして『一煉寺』の力もいずれ消え去り、技術だけが残る。それを受け継いだお前が何を成すかは、お前が決めることだ」
「……」
「いかに技を磨こうとも、決闘について不安に思うところはあるだろう。経験で遥かに上回る相手との戦いに、焦ってはならんというのは無理な話だ。しかし、お前には『敵を打ちのめす拳法』と『人々を救うために邁進してきた血筋』が付いていることを忘れるな。異国で医師としての使命に殉じた母も、お前を見守っていよう。あの頼もしい少女達だっている」
――経験で遥
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