第173話 花淵の血、一煉寺の拳
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なバッシングと鮎美先生へのアプローチを公共の電波に乗せる行為は今に始まったことではないのだが、日本に帰国して間もない古我知さんからすれば、新鮮を通り越して衝撃的な映像だったに違いない。
また、この言動ゆえ彼は日本最大の財閥のトップでありながら、世間ではさながらタレントのような扱いを受けている。以前に救芽井と茂さんにニュース番組へのゲスト出演を依頼していた業界人が、ネットで「この国もうダメポ」と呟いていたそうだが、多分間違いじゃない。
久水財閥と救芽井エレクトロニクスの共同事業が功を奏して、国内経済は格段に向上しているという話だが――代わりに大切な何かを失っている、ということだろう。物理的な繁栄の代償があのハジケ放送テロなのだとしたら、今の好景気にも納得……したくないな。
「龍太。もうじき例の決闘が始まる時期になるが……その前に一つ、お前に話しておくことがある」
「ん? どうしたんだよ」
茂さんの暴走を思い出し、辟易していた俺の背に親父の声が掛かる。振り返った先にある厳つい顔は、いつにも増して真剣だ。
大方、戦いにおいて忘れてはならない心構えでも説こうというのだろう。決闘の数日前に格闘技術について指摘したところで、すぐに直るものじゃないからな。
俺はじだんだを踏んで頬を膨らませている古我知さんを一瞥してから、法衣を纏う広大な背中を追う。
一方、俺と同じ道衣を身につけた兄貴は、古我知さんの肩を叩いて恋路を励ましている――かのようだったが、本人の表情は明らかに「面白がっている」人間のソレであった。
「まー何だ、そのうち振り向いてくれるかも知れねぇじゃねーか。お前の後ろの彼氏にな!」
「ふぐぅぅうぁあああ!」
……いや、励ますフリですらなかったか。
「我が一煉寺家が、かつては花淵と云う医師の家系であったことは――以前に話したな?」
「え? あ、あぁ。ひい祖父ちゃんが戦後に作った家名だったんだよな。去年聞いたよ」
背後に響き渡る青年の慟哭。それに気を取られていた俺の意識を引き戻すように、畳部屋まで進んだ親父は重々しく口を開いた。
一煉寺家誕生の経緯なら、既に聞き及んでいる。ただの一般家庭だと思っていた自分ちが、代々続く拳法家の家系と知った時も驚いたものだが……その源流が医者の名門だという話を聞いた時は、さすがに目を見張った覚えがあった。
元々の家柄が学問関係のものだったとは思えないほど、親父と兄貴は自身を人外の域に達するレベルで鍛え上げている。そこまで遺伝子を捩曲げてしまわなきゃならないほど、ひい祖父ちゃんは「力」を渇望していたのだろうか。
「うむ。俺の祖父、花淵龍平は『人々の命を救う』ための力をひたむきに追い求めていたそうだ。空襲で、家族を失うまではな」
「そのあとは再婚して祖父
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