第172話 夜道を駆ける姫君
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何か用があるのか」
「夜道は少々危険だからな。途中まで送っていく」
「ハッ、バカ言ってんじゃねーよ。オレにはワーリが付いてるんだ、ジャップの手なんか借りるかよ」
「必要あろうがなかろうが、俺が好きでやってるだけだ。気に食わないなら、カカシと思ってりゃいい」
「す、好きッ!?」
「ああ、大好きさ」
やはりいい感情は持たれない――か。予想はしていたが、実際にその通りになるとなかなか来るものがある。たまには外れてもいいのよ?
――だが、俺自身が望んでこの仕事を請け負っている以上、こんなところで手を抜くわけには行かないからな。そこだけはハッキリ伝えないと。
「ふふ、ふざけんじゃねぇえ! テンニーンの顔でそんなこと言ったって、オオ、オレは騙されにゃいぞっ!」
「落ち着けよ、噛んでるぞ」
「ひにゃあぁ!?」
そう思い立ち、この仕事を「大好き」と言い切って見せたのだが……さらに煽る結果を招いてしまったのか、彼女は鼻先まで真っ赤にして怒り出してしまう。激しく憤怒する余り、噛んでしまうほどに。
なんとかその興奮を鎮めるべく、俺は彼女の両肩を抑えて説得に掛かる――が、彼女はさらに裏返った悲鳴を上げ、顔面が破裂しそうなほどに赤面していた。
「だめっ……! だめだめ、だめえっ! ジャップのお嫁さんなんて、だめぇっーっ!」
「うわっ!? ちょ、待っ……!?」
しばらく涙目になっていた両眼をギュッとつぶり、イヤイヤと首を左右に振っていた彼女は、やがて俺を力一杯突き飛ばすと一気に走り出してしまった。
少しでも目を離すと、あっという間に見失いかねない速さ。――だが、見過ごすわけには行かない。
俺は自分が風呂上がりだという事実を敢えて投げ出し、ダウゥ姫の背中を目指して全力疾走するのだった。
――それから、約三分。
古ぼけた小さな民宿の前で、膝に手を置き息を荒げる彼女に、ようやく追いつくことが出来た。
どうやら、ここが例の宿泊先で間違いないらしい。この辺りにある宿泊施設と言えば、ここしかないからな。
そういや俺も昔、家の風呂がブッ壊れた時にここの温泉を使わせて貰ったことがあったっけ。あの時は兄貴とふざけてた弾みで女湯までブン投げられて、大騒ぎになったんだよなぁ。
「さ、ようやく着いたな。俺はもう帰るけど……やっとこれが言える。『お休み』」
「……」
彼女の息が整うのを待ってから声を掛けたつもりだったのだが――相変わらず返事がない。どうしても俺と仲良くすることはできないようだ。
……これ以上、ここに居ても仕方ない。ジェリバン将軍と鉢合わせしたら、余計にややこしいことになるし……今日は引き上げるか。
時には、諦めも必要。そう判断し、彼女の返事を待たないまま、俺は踵を返す。
そ
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