第172話 夜道を駆ける姫君
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取られちまったけど。
……だからまぁ、彼女の気持ちはわからなくもない。だけど、引き取り先がいるって保証がないまま餌をやり続けても、いつかは面倒を見れなくなっちまうわけで……。
もしかしたらダスカリアンに連れていくつもりなのかも知れないが、向こうの環境に日本の猫が対応できるのだろうか。
必死に髪を揺らして小猫を追う、水玉模様の小さな背中。それを追いかけながら、俺は彼女と小猫の別れを想像してしまうのだった。
「あっ……!」
ダウゥ姫が走り出してから、約一分。
小さな空地をゴール地点にして、少しばかりの追跡劇はようやく終結を迎えた。
急に塀から飛び降りた小猫は、忍者の如き素早い動きで空地を駆けると、隅に置かれていた段ボールの中に入り込んでしまった。
段ボールの中は新聞紙が敷かれ、近くには安物の傘が置かれている。恐らく、全てダウゥ姫が用意したものなのだろう。
「よかった……ウチに帰ってるだけだったんだな。オレから逃げてるみたいだったから、てっきり嫌われちまったのかと思ったよ」
すっかり大人しくなった小猫は、安堵した表情のダウゥ姫に抱き上げられると、嬉しそうに鳴いていた。彼女には随分と懐いているらしい。
「そっかぁ……オレのこと探してくれてたんだなぁ……。可愛いヤツめ、うりうり」
……猫の散歩を凄くいい方向に解釈しながら、頬すりを行うダウゥ姫。風呂上がりってこと忘れてませんか姫様。まぁ、彼女と一緒に走ってた俺が言えたことじゃないんだが。
「なるほど、こういうことだったわけか。で、どうするんだよこの子。引き取るのか?」
「……ワーリには、ダメって言われた。日本の猫は、ダスカリアン周辺の熱帯地域に適応できないって……」
どうやら、ジェリバン将軍には猫のこと自体は知られていたみたいだな。案の定、お断りだったようだが。
それを知った上で、こうして世話をしているところを見るに、やはり諦め切れなかったのだろう。日本人は嫌いでも、日本の猫はお気に入りらしい。
「しょうがないさ。生まれ育った場所が一番過ごしやすい、ってのは動物でも人間でも当て嵌まる。ダウゥ姫だって、故郷に居たいからジェリバン将軍に勝って欲しいんだろう?」
「あ、当たり前だ! お前達ジャップの言いなりなんて、絶対嫌だからなっ!」
「……ま、そうだろうな。だったら、猫の立場も汲んであげなよ。この子も、今のこの町の方が暮らしやすいはずだ」
「う……」
相変わらずの悪態だが、初対面の頃ほど話が通じないわけでもないらしい。言葉を詰まらせ、しばらく俯いた彼女は、観念したように小さく頷いていた。
さて……この娘を安心させるには、新しい引き取り先を見つけるしかなさそうだな。もちろん、決闘の対策が専決ではあるが。
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