第165話 無断出動と開幕タックル
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ハ、じゃあ俺はそれまでに、大量のニンジンでも用意しといてやるかな。餞別ってことで、さ」
――なんだろう。何を話しているのかはよく聞き取れないが、突き刺さるような悪寒を覚えたぞ……?
ま、いいか。今はそれより、自分の仕事に集中しないと。
俺はもう一度二人に手を軽く振り、すぐにビルからビルへと跳び移っていく。次に視界に入ったのは――矢村の家だ。
武章さんは未だに自宅の前で俺を待ち伏せしているらしく、宙を舞っているこちらを見つけるや否や、大声で何かを叫んでいた。
「見つけたぞテメェー! よくも賀織を汚しやがったなーッ! 降りて来やがれッ、それでも男かコンチクショオォー!」
「あんた、いつまでも大声で何言ってんだい! ご近所様に迷惑だろっ!」
「ムグ、フングッ! ぷはっ、い、一発ッ! 一発殴らせねぇと、俺はテメェを認めねぇからなぁあぁああッ! フグ、ムグゥッ!」
しかし、程なくして玄関から飛び出してきた矢村の母さんに首根っこを引っつかまれ、口を塞がれてしまう。それでも意地で、俺に何かを訴えるように叫び続けていた。
――八百屋のおっちゃんやお巡りさんみたいに、応援してくれてるんだろうか? もし正体がバレたら、ブン殴られそうだけども。
俺はひとまず武章さんの雄叫びを「エール」だと解釈することに決め、彼に親指をグッと立ててからパトロールに戻っていく。そうして俺が屋根から屋根へと跳び移っている間も、彼は奥さんの隙を見て叫び続けていた。
それからも、魚屋やぬいぐるみ屋のおばちゃん達住民の安全を確認しつつ、俺は建物から建物へ跳び回り、パトロールを続けていた――のだが。
「んっ……マズい! バッテリー切れか!?」
視界を覆うバイザーが赤く点滅し、マスク全体に警告音が響き渡る。充電がなくなりかけていることを知らせる、シグナルだ。
このまま跳び続けて、万が一空中で着鎧が解除されたりしたら、いきなり生身でノーロープバンジーを敢行するハメになる。……クッ、救芽井の言う通りだ。プロにもなって、こんな初歩的なミスをッ……!
――だが、今はそんなことを言ってる場合じゃない。早くどこかに着地して、身を隠さないと……!
俺は近場にある公園に人気がないことを確認し、住宅の屋根から一気にそこへ飛び降りる。すると、ここまでが限界だったのか、着地と同時にとうとう着鎧が解除されてしまった。辺りには……よし、人はいないな。
次の瞬間、視界がバイザーに包まれた景色から、肉眼によるものへと変わっていく。手も着鎧時のグローブ状のものから、本来の素肌へと戻っていた。
やれやれ、こうなっちまったら一旦部室に帰るしかねぇか……。また救芽井にドヤされちまう……。
しかも今回はプロになって早々の無断出動だからな
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