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フルメタル・アクションヒーローズ
第164話 松霧町の日常にて
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だが。

 ――やがて、制服に着替えた俺は矢村と二人で山道を降り、松霧町へ向かう。その頃には、矢村の鼻血もなんとか完治していた。
 道中の商店街。交番。物心ついた時から見慣れた景色が、今日も俺達の日常を織り成していた。

「おー龍太かァ! なんか前と感じ変わったなァ、男って顔になってるぜェ!」
「おぅ、八百屋のおっちゃんか。ハハ、相変わらずニンジン売れてねぇな〜」
「しょーがねぇだろ、ガキ共にしても親にしても、嫌がる輩が増えちまったんだからよォ。お前が見本になって喰いまくれよ、安くしとくから」
「やなこったい、俺もニンジン嫌いなんだよ」
「こらっ龍太! 好き嫌いしよったら……その、もっと逞しく……なれんで?」

 八百屋のおっちゃんに茶々を入れる俺の脇腹に、いつもの如く矢村の肘がグリグリと押し当てられるのだが――当の矢村本人は、なぜか頬を染めて遠慮がちな声色になっている。
 ここ最近の矢村は、時々こうして行動と言葉がちぐはぐになってるんだよなぁ。……不思議だ。

「――しっかしよォ、お前らまだくっついてねぇのかよ。いい加減結婚しろや。お前ももう十八だろォ」
「あ、あのなぁ……!」
「ま、そんなに迷ってんだったら、若いうちに女を取っ替え引っ替えってのも、人生の寄り道としちゃあイイんじゃねーのか? 俺がお前くらいの頃なんてそりゃもう……」
「なぁーにバカなこと言ってんだい! 高校三年間で八十回告白して、一発も当たらなかったクセして!」
「ゲェッ!? か、母ちゃんッ!?」

 そんな矢村との仲を、鬱陶しい程に追及してくる八百屋のおっちゃん。会話を遮って現れたおばちゃんにビビる辺り、この夫婦仲は今日も相変わらずのようだ。

「賀織ちゃん、おはよう! あらぁ、なんだかゴールデンウイーク前よりスッゴく可愛くなってない!? やっぱり恋は女を変えるのよねぇ〜」
「えっ、あっ……そ、そやろ……か? えへ、へへへ……」
「もー、龍太君もいけずねぇ。早くご両親に挨拶に行かないと、賀織ちゃん、誰かに掻っ攫われちゃうわよぉ? 可愛くて明るくて、料理も上手で優しくて……こんなに素敵なお嫁さん、今手放したら一生捕まえられないんだから! 賀織ちゃんも、しっかり龍太君のこと、捕まえとくのよ!」
「もっ……もぉおっ! おばちゃんったらぁ!」

 一方、そんなおばちゃんと矢村は、謎のガールズ(?)トークに突入していた。

 ……手放したら……か。俺がレスキューヒーローとしての人生に没頭して、彼女を置き去りにしてしまうことを考えるなら……その方が、もしかしたらマシなのかも知れない。
 もう一年近く、俺はあの告白に何の返事もせず、ただ着鎧甲冑のことばかり考えて生きてきた。そんな奴の近くにいるくらいなら、いっそ新しい恋を探す方が、本人のため…
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