第164話 松霧町の日常にて
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
なりえない。
そう腹を括り、俺が着替えを取ろうと寺の方へ振り返った瞬間――
「龍太ぁあああ! 早う行かんと遅刻やでぇえええぇええっ!」
「う、うおっ……?」
――けたたましい叫びと共に、天に向かって土埃を巻き上げながら……制服に身を包んだ矢村が駆け込んできた。
この場所は松霧町からは結構な距離があるのだが、彼女からすればほとんど問題にはならないらしい。
俺の傍まで全力疾走で飛んで来たかと思えば、踵で火花が散りそうな程の急ブレーキを掛け――ピタリと俺の目の前で停止したのである。坂を駆け上がって来た身でありながら、息一つ切らさずに。
「全くもおぉ! 遅刻なんかしよったら龍拳さんも困ってまうやろっ! 今週末に久美さんと龍亮さんが帰ってくるんやったら、家族として恥ずかしくないようにきちんと学校にも行かないけんっ! ほら、もたもたしとらんでさっさと――」
そして、文句を言いつつ愛らしい顔を上げ、
「――ブフッ!」
鼻血を出して悶絶していた。
「お、おい大丈夫かよ。いや、毎朝ここに来る度にそうなってること考えたら、今さら感はあるけどさ」
「……りゅ、龍太っ……その、ばでぃーはいけんっ……ア、アタシどうにかなってまうっ……!」
「ば、ばでぃ? ま、まあとにかく鼻血拭けよ。こんなになるんだったら、もう無理して迎えに来なくたっていいんだし」
「そ、それはいけんっ!」
――相変わらず無茶苦茶だ。毎朝ここまで迎えに来ておいて、いきなり鼻血を流されてちゃ、こっちだって気が気じゃないのに。
そんな目に毎回遭うくらいなら、欠かさず顔を出すこたぁないだろうがよ……。
「おぉ、賀織ちゃんか。龍太がいつも世話になっておるな。……また鼻血なのか?」
「……みたいだな」
「あ、おはようございまーす! い、いえいえ、アタシ全然大丈夫やし、心配いりませんてー!」
そんな矢村の猛ダッシュを聞き付けたのか、親父もひょっこり顔を出して来る。どうやら親父も、毎度の鼻血噴出には困り果てているようだ。つーか矢村……いきなりビシッと立ち上がっての敬礼はやめとけ……立ちくらみ起こすぞ……。
また、親父も既にこの事態は予期していたらしく、そのゴツゴツした手にはティッシュ箱が乗せられている。それを投げ渡された俺は、彼女の鼻に素早くソレを差し込んだ。
「そうか。まぁなんにせよ、毎朝こうして迎えに来て貰ってすまないな。さ、龍太も早く支度しなさい」
「わーかってるよ。んじゃ、ちょっと待ってろよ矢村」
「うんっ!」
そして俺が着替えを取りに行く頃には、彼女もすっかり元気を取り戻したらしく、満面の笑みで手を振っていた。……鼻にティッシュを詰めてるせいで、「コレジャナイ感」もハンパないの
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ