第156話 古我知剣一の戦い
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ことをしようとしている自覚があろうとも、彼としては言わなければならないのだ。
――告げなくては、ならないのだ。
「瀧上凱樹を倒した人物」が、一人ではないことを。
「私はまず、将軍殿に嘘をついていたことを謝らなければならない」
「嘘……だと?」
苦肉の策として、和雅の口から出て来た言葉に、ジェリバン将軍は眉をひそめた。この期に及んで何を言うつもりなのかと、その眼差しが鋭く和雅を射抜く。
「『瀧上凱樹を倒した男』は、正確に言えば剣一君ではないのだ。むしろ、真に彼にとどめを刺したのは――この少年なのだよ。彼を倒さずして、日本人に貴殿を超える戦士はいない、とは言い切れまい」
その眼光に怯むことなく、和雅は懐に手を伸ばし――ある一枚の写真を引き抜いた。
「ハンッ! 土足で国に上がり込んだかと思えば、今度は見苦しく言い訳かよッ! ジャップのくせに生意……気ッ……!?」
一応は和雅の話を聞こうと静かになったジェリバン将軍とは違い、ダウゥ姫は聞く耳を持たずに食ってかかる。
だが、その罵詈雑言が終わらないうちに、彼女の声は小さく萎んでいってしまった。同時に激しく驚愕するように、つぶらな瞳が大きく見開かれていく。
「なっ、なな、う、うそ……!?」
「……!?」
ジェリバンも動揺の声こそ上げないが、先程まで何事にも動じずに据わっていた眼には、明らかな乱れが生じていた。
それ程までの衝撃が、この写真には詰まっているのである。
(一煉寺君。君をこの戦いに巻き込んでしまう、私の無力さを恨め……!)
そんな和雅の胸中を他所に、ダウゥ姫は震える唇から――この世に居ない人間の名を呟いた。
「テン、ニーン……!?」
黒い髪に、吸い込まれるような同色の瞳。おおらかな笑顔に、左目に付けられた縦一直線の切り傷。僅かに素朴さを残した、精悍な顔立ち。
肌の色さえ違えば。眼の傷さえなければ。完全に、彼女が愛した戦士と同一の姿になる。
「なんと……いうことだ」
――そして。ジェリバン将軍にとって掛け替えのない、大切な一人息子の姿にも。
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