第155話 王が去るか、国が死すか
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国は今も砂漠の一部と化していただろう。それまでは独立の反動で、外交に関して閉鎖的になっていた国全体も、貴殿の誠意に触れ、今では周辺諸国とも友好的な関係を築けている」
「私は彼を送り込んでしまった償いを、可能な限りで行っているだけだ。怨まれこそすれ、感謝される謂れなどない。だが――もはや私が尽くすだけでは済まなくなっているようだな」
過去に起きた惨劇の痛ましさに、初老の男性は眉を潜める。
男性はかつて、機械の身体を持つ「ヒーロー志望」の男――瀧上凱樹の正義感を見込み、この国の救済のために送り込んでいた。しかし結果は期待の逆を突き進み、強大な自分の力と正義に呑まれた彼は、あろうことかこの国で大規模な殺戮を行い、国家全体を一時的に崩壊させてしまったのである。
その惨劇の直後、男性は総理大臣としての名声を捨てて十年以上に渡り、この国の復興に努めて来たのだ。
この問題に長年悩み続けてきたせいか、その頭髪は完全に脱色しており、まだ六十代前半でありながら、顔中に深いシワが出来ていた。しかし一方で広い肩幅と優れた体格を持ち、その眼差しには強い意志が燈っている。
彼――伊葉和雅は、常に感じているのだ。この悲劇から、決して目を逸らしてはならない、と。
「この件については完全に秘匿されており、私と将軍殿、それと王女様しか知らなかったはず。まさかつい最近になって、噂として国中に広まっていようとは……」
「瀧上凱樹の件を知ってから、日本人を嫌うようになってしまわれた姫様も、軍に口外して対立を煽るようなことはなされなかったはず。調査に出した部下によれば、ある白人の女が『新人類の巨鎧体』の写真を通行人に見せて回っていた――という話もあるが……。いずれにせよ、この国が日本を疑い出すのは時間の問題だ。既に我が国防軍にも、この話は蔓延している。特にその中の過激派に至っては、貴殿が派遣してくれたNGOメンバーに暴言を吐く始末だ。その場で私が叱責して場を収めることは出来たが……根本的な解決にはなっていないだろうな」
平和が戻ったはずの、今のこの国に流れている不穏な空気。その責任が自分にあることを痛感している和雅は、向かいの「話し相手」の隣に座っている少女を見遣り、沈痛な面持ちになる。
「王女様の前で申し上げていいことではないが――多数の国民だけではなく、当時の王族にまで手を掛けているのだ。迂闊に公認しては重大な国際問題になる。私が現在も総理大臣の座に付いてさえいれば、力の限り賠償するところなのだが……保守的な現日本政府は、この件を絶対に認めることはないだろう。揉み消しに掛かるはずだ」
「つまり現状のままで、日本人――瀧上凱樹個人によるジェノサイドが発覚すれば、日本とダスカリアンの関係は絶望的、ということだな。我が民も王を殺
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