第154話 十一年前の死
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いに乗り出す直前に別れることになってしまった、この国の姫君と――この世でただ一人の父。
何よりも守るべきその二人を背に、青年はこの戦いにだけは何としても「勝つ」つもりでいた。
戦いに向かう前に見た二人の顔を思い浮かべるだけで、力が湧き出ているように感じていたのだ。
だが、現実はどこまでも冷徹で――非情なのである。
青年が駆け付けた頃には、既に仲間達は全員消し炭と化し、その遺体さえ粉々に砕かれていた。さらに、自身が慣れ親しんだ町並みまでもが火に包まれ、無惨な廃墟に変貌しようとしている。
幼い頃から、共に生きてきた国、町、人間。その全てが、一夜にして瓦解していく。青年はただ、その崩壊していく道のりを眺めることしか出来ずにいた。
「……なにが、一人の戦士として……だ! 何も、守れないじゃないか! 何、もッ……!」
下唇を切れる程に噛み締め、銃身を握り、肩を震わせる。己への怒りは際限なく高まっている――が、それが何かを救える力に繋がることはなかった。
どれほど怒ろうと、どれほど悲しもうと、死んだ人間は生き返らないし、国は元に戻らない。生きて戦おうとする人間が、不条理を覆す力を得られることもない。
そんな当たり前で、容赦のない現実の波に、青年は成す術もなく打ちのめされている。だが、それでも彼は――戦うことを辞めなかった。
まだ幼い姫君のためにも、生まれ育ったこの砂漠の国のためにも、戦うことを投げ出してはならない。その一心だけに突き動かされ、青年は憑かれたように戦場を進み続ける。
そして――あの巨人と、視線が交わる瞬間。
「あっ――!」
巨大な黒鉄の胸板の中から現れた、全てを焼き尽くす悪魔の兵器が火を放ち――
――青年の意識を。命を。魂を。信念を。
簡単に、奪い去ってしまった。
蚊を殺す感覚にも及ばない程に、あっさりと。
「……バカめ、のこのこと死にに来るとはな。――しかし、さすがの破壊力だ。あのラドロイバーとか言う陸軍の女、得体は知れんが技術だけは確かなようだな」
すると、巨人の顔が扉を開くように二つに分かれ――そこから、生き血を全身に浴びた、鉄製の身体を持つ男が現れる。先程まで鬼神の如く暴走していた巨人は、彼が出現した瞬間、心臓を抜かれたように動かなくなってしまった。
そう。巨人を操っていたこの男は、死んでいったこの国の戦士達が、幾多の命と魂を懸けて破壊しようとしていた顔面部分から……「何食わぬ顔」で出て来たのである。
それも戦士達の死力を嘲笑うかのように、「自分から」。
そんな彼は、自分が滅ぼしてきたもの全てを意に介さず、自身が得た「力」にのみ関心を向けていた。
彼にとっては、何の感情もなかったのだろう。この国の人間の、
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