第153話 十九年前の死
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その製造や販売を一手に請け負う企業「救芽井エレクトロニクス」を創設。
アメリカに本社を構え、「人々を救うヒーローを生み出す」という彼らの夢は、いよいよスタートラインに立ったのである。
その記念すべき量産型第一号「救済の龍勇者」には、純粋なレスキュー能力にのみ特化した、救命及び消防用の「R型」と、兵器化を望む声に対応する形で生まれた、非殺傷の武装のみを許した警察用の「G型」という二種類のパターンが誕生していた。
――これは軍用兵器としての本格運用を目論む勢力に対抗し、レスキュー用という本懐を見失わないための措置であった。
着鎧甲冑の性能は、それまでの科学技術が生んできたパワードスーツとは一線を画したものである。それだけに、その力を狙う者も多い。資金援助などを条件に使い、彼ら救芽井家に取り入ろうと目論む勢力は、後を絶たなかったのだ。
純粋に彼らの在り方に感銘を受け、協力を申し出る資産家も僅かには存在したが、救芽井家は自らに寄り付く連中の多くを疑い、蹴り、己の道を歩み続けていた。
しかし、周りの者は諦めない。救芽井エレクトロニクスの魅力は、世界最高峰のパワードスーツの技術を独占していることだけではなかったからだ。
社長令嬢、救芽井樋稟。
その絶世の美貌は、世の男の関心を一身に惹き付けたのである。
母譲りのプロポーションに、茶色のショートボブ。鮮やかな碧眼に、透き通るような白い肌。そして、女神の彫像を彷彿とさせる端正な顔立ち。
まさしく母の全てを受け継いだ美しさ。その全てに、大勢の男性が悉く魅了され、崇拝の念を抱いていた。
連日連夜、救芽井家を主賓に行われる、豪華絢爛な舞踏会や立食パーティ。
それは着鎧甲冑を狙う狡猾な富豪や軍の名門だけではなく、彼女に心を奪われた貴公子達が、その柔肌に触れる機会を得るためのものなのだ。
数多くの名門の子息は、彼女に近づこうと甘い言葉を囁き、高価なプレゼントを用意する。そして彼女の手を取り、優雅な時間を過ごすことを夢見るのである。
しかし、そのきらびやかな世界に住む誰かを彼女が選ぶことはなかった。
「……龍太君」
――彼女が心に決めた「王子様」は、そことは遠く離れた世界に生きているのだから。
◇
「ふにゃむ……ぶえっくし! んにゃ?」
「……一煉寺ぃ。授業中に居眠りしながらくしゃみたぁ、随分と器用なヤロウだな」
「え、あ、いや、あはは。これはほら、修練の一環というヤツでして。こうしていついかなる場合でも、目を覚ませる準備を常に――」
「じゃあついでに身体も鍛えとかねぇとな。廊下でバケツ背中に乗せて、百回腕立てしてこい」
「そ、そんなご無体な〜ッ!」
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