第153話 十九年前の死
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掛けた相手が母の華稟だったなら、「世界一周の旅に出ていてしばらく帰ってこれない」というように、マイルドにごまかせていたかも知れない。
「おばあちゃん、なんでいなくなっちゃったの? ねぇ、なんで?」
「あー、それはの、えーと……」
「……おじいちゃんも、いなくなっちゃうの? パパもママも、いなくなるの?」
答えに詰まる祖父を前に、無垢な少女は胸に抱えた不安をさらに拡大させていく。既にそのつぶらな瞳には、大粒の涙が溢れていた。
「あ、いやいや、そんなことはないぞ樋稟! ワシはまだまだ元気じゃぞい! のぅ甲侍郎!?」
「えっ!? え、えぇ、そうですとも! 樋稟、パパもおじいちゃんもまだまだ元気だ! だから、何も心配することはないぞっ!」
そんな娘の様子を見て、甲侍郎と稟吾郎丸は慌てて元気付けようと騒ぎはじめる。周りの助手達はそんな二人に苦笑しつつ、静かに見守っていた。
「……そうなんだ。いなくなっちゃうんだ」
しかし、子供ながらに父と祖父の真意を察してしまったのだろう。いつかは皆いなくなる――そう感じてしまった少女は、堪らず泣き出してしまった。
「パパも、ママも……おじいちゃんも、みんなみんな……う、え、ぇえぇええぇんっ!」
「あわわわ、泣くな泣くな! おじいちゃんもパパも、どこにも行きゃあせん! ずっと樋稟と一緒じゃよ、だから泣くでないっ!」
「そそ、そうさ樋稟! パパはいつだって樋稟の味方だぞ! ずっとずっと一緒なんだぞっ!」
「わあぁあーん! みんなっ……みんなぁ、いなくなっちゃ、やぁああーっ! うあぁああーん!」
必死に慰めの言葉を探す甲侍郎達だが、少女にはまるで効果がない。少女はうさぎのぬいぐるみを強く抱きしめたまま、研究室全体に轟くような声量で泣き叫んでしまう。
甲侍郎や稟吾郎丸はもちろん、周りの助手達も皆、耳を塞いで困り果てたような表情で互いを見合わせていた。こうなってしまっては、泣き疲れるまで止まらないことは周知の事実だからだ。
「あらあら、樋稟ったらどうしたの?」
――ただ一人。
「っ!? マ、ママぁ……! うぇえぇええんっ……!」
少女の母――救芽井華稟の介入がない限りは。
「おおっ、か、華稟! いいところに来てくれた!」
「もう、あなたったら……それにお義父さんまで。樋稟に一体何をしましたの?」
「い、いやぁ、実はワシのカミさんのことでの……」
ウェーブのかかった、セミロングの金髪。娘に勝るとも劣らない、白くきめ細やかな肌。薄い桜色の唇に、神の造形とも云われる程の目鼻立ち。そして、奇跡的にまで均整の取れたプロポーション。
「なるほど――そういうことね」
それら全てを一身に備え
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