第153話 十九年前の死
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けていたという彼の妻は、同じ志を持った友人を戦場の砲撃で失い、そのことを最期まで悔いていたという。
そんな母の無念を受け、甲侍郎は「どんな状況でも死ぬことのない、母やその友人のようなヒーローを作り出す」ことを目指し、着鎧甲冑の開発に乗り出したのである。
元々ニューヨーク郊外に置かれていた研究所を山岳地帯に移し、一家全員で引っ越したのも、この研究に没頭するためであった。
「――しかし、煮詰まって来ている……という点は認めざるを得ないかも知れません。そろそろ優秀な人材が、もう一人欲しいところなのですが」
「そんなウマい話がそうそうあるもんかのぉ。……ん?」
その時。甲侍郎と話していた稟吾郎丸は、小さな足音を感じて――即座に振り返る。
彼の視線の先には、うさぎを象ったぬいぐるみを抱く、一人の少女が立っていた。
年齢は五歳程度。薄茶色のロングヘアーと白い肌、碧い瞳を持ち、そのあどけない顔は不安げな色を湛えている。
父譲りの西洋人らしい外見ではあるが、甲侍郎の娘であるこの少女もまた、立派な日本人なのだ。加えて、この歳で大学に通っている才女でもある。
「おぅ、樋稟か。大学の宿題は終わったのかの?」
「……うん」
「そうか、よく頑張ったな。さぁ、ここは危ないから、ママと外で一緒に遊んできなさい」
研究室の入り口から覗き込むように見つめる愛娘に、甲侍郎は宥めるような口調でここから離れるように忠告する。ここで着鎧甲冑の稼動実験も行っていることを鑑みれば、当然の対応だろう。
「……」
「……? どうした、樋稟」
しかし。
普段は何かと利口で、父の言い分に逆らうこともない彼女が――この時だけは、父に何を言われてもそこから動かずにいた。
「おやおや、どうかしたんかぇ。お腹でも空いたか? それともお手洗いかの?」
何も言わず、ただじっと二人を見つめていた孫娘に、今度は稟吾郎丸から話し掛けていく。そして、同じ身長を持つ二人の視線が交わった時……樋稟と呼ばれる少女は、今にも泣きそうな表情で口を開くのだった。
「……ねぇ。おじいちゃん。おばあちゃんって、ひりんが生まれる前にいなくなっちゃったんだよね」
「むっ――まぁ、そうじゃな。おばあちゃんも、お前の顔が見たくてしょうがなかったろうに」
そして、その唐突な話題に稟吾郎丸も甲侍郎も、思わず顔をしかめてしまう。つい最近、この少女に「自分に『祖母』がいない理由」を問われ、「ある日いなくなってしまった」とお茶を濁したばかりなのだ。
五歳の子供に「災害に巻き込まれて死んだ」などとストレートに答えるわけにも行かず、かといってオブラートに包んだ言い方も苦手な父と祖父の二人では、それが精一杯だったのである。
もし、少女が問い
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