第152話 三十六年前の死
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それから、数日後。
「……ママ」
「ん?」
荒れ果てた街と、煙が舞う空を見上げ、再会した母と手を繋いだ少女は、力無い声で呟く。
「エルナね。ゆうべ、夢を見たの」
「そう……。どんな夢かしら?」
「えっとね、悪い人が空を飛んでてね。空の上から、街の皆に酷いことをするの。それでね、おんなじように空を飛べる人がね、その悪い人をやっつけるの」
「……ふぅん。かっこいい……わね。ヒーローみたい」
少女の見たという夢。それは、街を襲う無情な砲弾と、少なからず繋がっているようにも感じられるものだった。
娘が、この戦いを止めてくれる――砲撃から皆を守ってくれる、そんなヒーローを求めている。そんな願いが夢に現れたのかと察した母は、無力な自分を憂いて俯くしかなかった。
だが、夢を見た娘の真意は、母の解釈とは違っていたのである。
「だからね、エルナ……大きくなったら、その悪い人をやっつける人になるの」
「えっ……?」
「きっとね。あの夢って、エルナの将来のことだって思うんだ。ヨシエさんみたいな人も、ママも、街の皆も、エルナが守ってあげる。エルナ、もう……負けない」
硝煙が登る空を見つめる、少女の碧い瞳。その眼差しには、あの日とは掛け離れた「生気」が宿っていた。
――在りし日の女医の姿を、再現するかのように。
そして、それから六年後。
少女エルナは、アメリカへ渡り――陸軍の道へ進んでいくことになる。
それが彼女に望ましい未来をもたらしたのかは、誰にもわからない。
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