第3部 着鎧甲冑ドラッヘンファイヤー重殻
プロローグ
第151話 四十八年前の死
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一煉寺』の信念は、卑劣な裏社会の闇を討つ剣となり――!」
「――そうして誰かの役に立ったのは、結果論に過ぎん。煉獄の如き修練を己に課し、やがて周囲にまでそれを強いるようになった男が居ては、拳士全体の和を乱す。ウッ――ゲホッ! ……ゆ、ゆえにワシは追放され、この山奥に自己修練のための寺を建てた。たった一人でも、己が生み出す煉獄の道を歩み続けるための寺、『一煉寺』をな」
男は、ただ強さを求めていた。
自らの無力さを払拭し、何も奪われない、奪わせない力を得るために。
そのために、男は花淵という本来の家名さえ捨て去り、一煉寺と名乗るようになったのだ。
「じゃが修練の厳しさゆえか、もうここに門下生は一人もおらん……。今のワシにとっては、お前が弟子として、婿としてついて来てくれたことが何よりの救いじゃった。家族も家名も、拠り所にしていた拳法の道さえも失い、こんな山奥に追いやられたワシには、もうお前しかおらんのだからの……」
「ち、父上ッ!」
「ワシは……いつ自分が死んでも、お前が生きて行けるように……拳法の全てを叩き込んだつもりじゃ。その修練のために在った、この寺――いや、『我が家』をどうするかは、お前が決め、ろ」
自身に訪れる終末の時が、刻一刻と近づいている。それを察した男は、遺言を残しているかのような言葉を並べ始めた。
掠れていく声。震える唇。痙攣を起こす身体。その現象全てを目の当たりにした息子も、父の最期が近いことを察していた。
やがて男は、最後の力を振り絞るように震える首を動かし、息子の腕の中で健やかに眠る孫を見遣る。
「……そして、もし。もし、だ。その子が、この門下生不在の寺を継ぐことを拒み。一人の男として、違う道を行きたいと願ったならば……その想いを、汲んでやれ」
「なんですって……!?」
「鋼の如く己を鍛え、その拳を以って悪を裁く。――そのような道は、『血』が望んでおらぬのじゃ。ワシの娘の……芳恵のような生き方こそ。人を助けるためだけに生きる道こそ、『一煉寺』と言う名に隠された『花淵』の血の本懐なのじゃから……な」
「花淵の、本懐……」
人を助ける、学の道。悪を砕く、拳の道。真っ向から相反する世界の両方を生きた男は、己の人生が正しかったとは思えずにいた。
誰かを守るために誰かを傷付ける生き方が、本当に自分に相応しかったのか。その答えを死ぬ間際でも出せない自分に、男は歯痒さをあらわにしていた。
「ワシは戦後からずっと、己の血筋に……人を助ける仕事を望んでいたはずの自分に、嘘をついて生きてきた。無力さばかりを呪い、憑かれたように修練に生きてきた。確かに、『一煉寺』として生きたがゆえに身についた力で、誰かを守ることは出来た。じゃが、それは本当に望んだワシの生
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