第150話 ヒーローの始まり
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「うぃっす! 今さっき、やっと補習が終わっ――」
「子種を下さいましッ!」
「だが断るッ!」
ノックを経て扉を開く瞬間、突如奇襲を仕掛けてきた伏兵。そのくせ者の顔面を掌で抑えると、龍太は全てを見越したようなタイミングで牽制の言葉を放つ。
この間、僅か三秒。
最愛の男性に勢いを止められながらも、茶色のロングヘアーとグラマラスな肢体が特徴の伏兵――久水梢は、なんとか抱き着こうと両腕を振り回しているが、運動音痴な彼女の力ではさすがに大の男の腕力に勝るには至らなかった。彼女の身体――特に胸の辺りは制服の最大サイズでも小さいらしく、少し動いただけで胸元のボタンが弾けそうになっている。
「モゴッ! モゴモゴ〜! フンゴフンゴ!」
「こういうド変態なとこ、ホントに兄妹ソックリやな……龍太、補習お疲れ。で、今日はどうやったん?」
「その様子だと、あんまりイイ収穫はなかったみたいね」
この性的な奇襲攻撃も、ここではもはや日常茶飯事。呆れてものも言えない、という様子で現れた賀織は、梢の暴挙を片手で抑えている龍太に対し、挑発的な笑みを浮かべて八重歯を覗かせる。その隣に立つ樋稟は、困ったように眉を潜めつつ、口元を緩めていた。
「……抜き打ちテストで滑りました」
「あちゃ〜……ホントにしょうがないやっちゃな、あんた。ほやけん、あんなに『担任がたまにやる抜き打ちテストには気ぃ付けよ』って言うとったやん」
掌を額に当て、賀織はため息混じりに苦言を呈する。樋稟も自分の顔を片手で覆い、はぁ、と深く息を吐いた。
「ディフェンドゥーズサインの練習も始まったばかりなのに……そんな調子じゃ、いつまで経っても試験対策が本格的に始まらないわよ。今日のうちにしっかり復習すること!」
「りょ、了解」
腰に手を当て、きつく叱る口調で龍太を糾弾する樋稟。その様子は、さながらこの場にいない母親のようであった。
「――っぷはぁ! りゅ、龍太様……まずは手にキスして欲しいだなんて、さすがに遅過ぎるのではありませんの? ワタクシ達の年代ならば、もう登り詰めるところまで登り詰めるべきざます!」
「そんなこと言ってないし早い遅いの問題じゃねーよ、久水先輩!」
樋稟の叱責に龍太がたじろぐ瞬間、彼のアイアンクローから解放された梢が唸りを上げて淫らに迫る。だが、当の龍太自身の反応は相変わらず淡泊であった。
「……龍太先輩。早いか遅いかは女にとって重大な問題。『命短し恋せよ乙女』という言葉も知らないようでは、合格なんて一生不可能……」
その時。白塗りの部室の最奥で、静かに読書に興じていた少女が静かに口を開いた。こちらに目を合わせず、冷ややかな口調で呟くその姿は、龍太が彼女に初めて出会った頃と変わらないようにも見える。
だが、
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