第150話 ヒーローの始まり
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れの悪い言葉を並べて、頬を赤らめながら視線を泳がせる龍太。瀧上凱樹と戦っていた頃の毅然とした姿からは、想像も付かない有様だ。
そんな彼の様子に、多少の幻滅と共に安心感を覚えた樋稟は、穏やかに口元を緩める。――自分と同じように彼もまた、色恋に悩む年頃なのだと実感して。
どれだけ強く、どれだけ多くの女性を惹き付けようとも、中身は普通の思春期である少年に違いない。その現実に安堵する樋稟の前で、龍太は無意識のうちにある少女へ視線を移す。
――小麦色に焼けた健康的な肌。艶やかな黒髪と愛らしい唇。小柄ながらも愛嬌に溢れた、矢村賀織という少女へと。
「えっ……!?」
「あ……!」
その一方で彼女もまた、龍太の視線にはすぐに感づいていた。数年に渡り想いを馳せていた相手から熱を帯びた眼差しを浴び、少女の頬は急速に赤らむ。
刹那、互いの記憶が唸りを上げて蘇り、双方の動悸を際限なく高めていく。戦いの最中、重なったあの温もり。
そのビジョンが同時に再生され、二人の体温は瞬時に高まった。
「お、俺パトロール行ってくるッ!」
いたたまれないこの空間から、いち早く脱出する龍太。
彼は股間を抑えたまま、うさぎとびの要領で窓から部室の外へ飛び出すと、逃げるような格好で「救済の超機龍」へ着鎧した。
「ちょっ、龍太様ッ! まだ二人目の名前が決まっておりませんのにッ!」
「……意気地無し……」
「あーあー、これだから優柔不断な男は最低ね、フフフ。ま、らしいっちゃらしいけど」
そんな彼の男気に欠けた行動に、四郷姉妹からは非難の嵐。だが彼の行動は既に読めていたらしく、二人はため息混じりに苦笑いの表情で、互いに顔を見合わせていた。
二十年以上の人生を生きてきた女の勘は、樋稟の囁いた内容を聞こえずとも察していたのである。
「……そう、なんだ」
瞬く間に窓から飛び出し、町中へ向かっていく真紅のヒーロー。その後ろ姿を目線で追い、樋稟は静かに呟く。
彼が今、誰に惹かれているのか。その答えは、彼女が思っていた以上にあっさりと出てしまった。
一煉寺龍太は、矢村賀織を好いている。自分ではなく、あの少女を。
その事実が槍のように突き刺さる感覚に襲われ、樋稟は思わず唇を噛み締め、顔を伏せる。覚悟していた結末は、予想を遥かに凌ぐ速さで訪れたのだった。
――だが、それは彼女にとって、なんとなくわかっていたことだ。付き合いの長い彼らの間に付け入る余地は、あまりにも小さい。それは梢も十分に感じていることだろう。だからこそ、ああも熱烈に迫っているのだ。
鮎子も彼に思慕の情を寄せてはいるものの、梢ほどアプローチに固執してはいない。あくまで、龍太の想いを尊重するつもりなのだろう。
現状を考えるな
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