第150話 ヒーローの始まり
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わないし、彼女がそんなところに惚れ込んだのも事実。しかし、そのために自らの命を犠牲にする道など、絶対に認められない。
その生き方を止めるためなら、色情狂にも痴女にもなる。それが、久水梢の一人の女としての覚悟であり、矜持であった。
「……やってくれるわよね、ほんと」
そんな彼女の在り方に共鳴していながら、同じ手段に踏み切れずにいた樋稟は、辛い想いを微塵も龍太に見せないその姿勢に感嘆する。
彼を愛する気持ちだけならば、誰にも負けるつもりはない。しかし、自分にあそこまで一心不乱に突き進む勇気があるかと言うと、本人の意識としては不安があった。
さらに彼女は、彼を狂気の道に誘っておきながら、その背を押すことしかできない自分にえもいわれぬ歯痒さを感じていた。
一番の原因は自分だと言うのに。責められるべきは自分だと言うのに。それでも彼に愛して欲しいという虫の良い気持ちが、濁流のように溢れては、自らの自制心を飲み込んでしまう。
そのような身勝手な感情を覚えた自分に辟易し、自己嫌悪に陥ったことも少なくない。自身に代わって現実に抗い、自分の夢を守り抜いてくれた龍太への想いと罪悪感は、常に彼女の胸の底で渦巻き続けていた。
彼の母に、勇敢かつ優秀な人物に育てると誓いを立ててからも、その苦悩は彼女を捕らえて離さない。その気持ちを乗り越えるため、ほんの少しでも償うため、彼女は――
「……ねぇ、龍太君」
「ぐぉおぅ……ん? ど、どうしたんだよこんな時に」
「龍太君が一番好きな娘って、誰?」
「は、はぁあっ!?」
――最後に彼が、誰を選ぼうとも。自分が見放されようとも。その決断を、真っ向から受け止めることに決めていた。その決意をさらに固めるため、救芽井は誰にも聞こえない声量で、静かに愛する少年の耳元で囁く。
彼に恋い焦がれる女性は多く、これからもこの道を歩んでいくならば、同じ想いを抱く女性は増え続けていく一方だろう。その中で、最も彼に愛される可能性から一番程遠い存在は、彼を修羅の道へと誘った自分に他ならない。少なくとも樋稟自身は、そう思い悩んでいた。
だからこそ、彼が誰を伴侶に選んだとしても、自分はその結果を甘んじて受け入れなければならない。その覚悟こそが、彼女にとっての贖罪だった。
もし自分が選ばれなかったら、自分ではない誰かを選んだ龍太を、これからずっと支えていくことになる。それはきっと、辛く苦しい結末なのだろう。
しかし、その程度の代償なくして、彼の傍に立つ資格などありえない。彼をそう変えてしまったのは、自分なのだから。
「だ、誰って……え、ええと、そそ、それは……!」
「なによ、柄にもなくウジウジしちゃって。男らしくないよ?」
「ん、んなこと言われたってなぁ……!」
歯切
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