第150話 ヒーローの始まり
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水色のサイドテールを夏の風に靡かせるその少女――四郷鮎子は、紛れも無い「生身の人間」として蘇っているのだ。もう、機械仕掛けの人形などではない。
「わ、悪かったよ。まだまだ勉強が足りねぇな……」
「……そう。これからはボク達がそれを指導するから、覚悟するように。確かに着鎧甲冑関連の座学なら、救芽井さんや梢の方が適任。だけど、一般常識に欠けるスケコマシに必要最低限の教養を叩き込むくらいなら、ボクや矢村さんでも十分務まる……」
「スケコマシ!? いくらなんでもあんまりだろうッ! ……だいたい、別に『先輩』だなんてこそばゆい呼び方はしなくていいっていつも言ってるだろ。普通に『龍太』とかでいいんだって」
「……年功序列は大切。先輩だって、梢にそうしてる……」
「そ、そりゃそうだけどさ」
若干むくれたように頬を膨らませ、鮎子は顔を上げる。細まった赤い瞳に射抜かれ、龍太は思わず後ずさってしまった。
「……そんなに嫌なら、違う選択肢がある。『お兄ちゃん』。『兄さん』。『にぃに』。好きなのを選んで」
「……妹キャラを所望した覚えはないのですが。だいたい、そんな選択肢はどこから引っ張ってきたんだよ」
「あなたのお兄さんから」
「おのれ兄貴ィィイッ!」
――梢と鮎子が編入してきたのは、二学期に入ってからすぐの事である。
着鎧甲冑部の話を聞いた彼女達は、龍太達に何の事前連絡もしないまま、いきなり松霧高校に乗り込んできたのだ。梢は「龍太の子を身篭る」ために。鮎子は姉に奨められた「青春時代のやり直し」のために。
気高い貴婦人を彷彿させる、グラマーな絶世の美女。保護欲を掻き立てる、小柄ではかなげな美少女。その両方が唐突に現れ、学校中が騒然となった事実は、この学校の生徒にとっては記憶に新しいことだろう。
龍太や樋稟より一つ年上であることが発覚し、三年生として扱われた梢は、龍太を授業中に襲えない現実に血の涙を流しながらも、そのカリスマを駆使してクラスメート達と良好な関係を築いている。
国内外の多種多様な企業とノートパソコンで連絡を取り、兄のスケジュールを組む。そうした久水財閥秘書としての仕事を片手間でこなしながら、休み時間でガールズトークに興じる彼女の様子は、もはや名物の一つとなっていた。
一方、鮎子は姉により戸籍上の生年月日を書き換えられ、十五歳の一年生としてこの学校に編入された。今ではその(外見的な意味での)年齢不相応な立ち振る舞いにより、クラスを代表するクールビューティとしての地位を確立している。
少し前の彼女なら、クラス内で居場所を得るどころか、学校に行こうと考えることもなかっただろう。それが親友である梢の影響によるものなのか、龍太への慕情によるものなのかは、本人のみぞ知る。
そんな二人は、編入して間もなく
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