第149話 いつも通りと違う昼
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して悪いことではない。
初めは「救済の超機龍」を信じ切れていなかった一部の住民も、その正体がこの町で生まれ育った少年と知るや否や、あっさりと掌を返したのである。加えて、元々龍太をやっかんでいた松霧高校の男子生徒達の中にも、「救済の超機龍」の活躍を知り、彼を認める者が少しずつ出るようになっていた。
そこまで周知の事実となっていながら、龍太本人が真実を把握出来ていないのは、彼自身の鈍感さ以外にも理由がある。
町の外――つまりは救芽井エレクトロニクスの本社があるアメリカや、支社が設立されつつある東京など、外側の世界から「救済の超機龍」を探りに来た人間に対し、人々が黙秘を貫いているからなのだ。
自分の町の住民、それもヒーローとして奮闘している少年を売るわけには行かない、という大人達の矜持。この町で自分達と一緒に暮らしているヒーローを、他所に掻っ攫われたくない、という子供達の意地。その両方が絡み合い、龍太を守る障壁となっているのである。
それでも外部の人間には簡単に調べられ、見抜かれることの方が多いのだが、そうした情報はネットで拡散される前に、救芽井エレクトロニクスの監視体制によってブロックされている。龍太が正式な資格者でないことに配慮した、救芽井甲侍郎による采配であった。
そうした人々の支えにより、松霧町を拠点にする龍太の活動は今も変わらず続いているのだが――当の本人はそんなことは露も知らぬまま、町で起きる事件や事故の解決に奔走する日々を送っているのだった。
ゆえに松霧高校にて発足した、女子生徒中心の「『救済の超機龍』ファンクラブ」が、自分自身へのファンクラブとして作られたことにも気づいていない。龍太自身はそのクラブについては、「ヒーローに幻想を抱き、自分みたいなイモが正体とは知らずに応援している連中」と解釈しているのである。
それだけに、彼女達の理想を壊さないためにも正体隠しは徹底せねば。……と意気込む龍太に、どれほどの生徒がため息をついたことだろう。
「……仕方ねぇ。部室、行くか」
気だるげに身を起こし、椅子から立ち上がる龍太は、部室棟を目指してゆっくりと歩き出す。
「一煉寺君、これから部活? 頑張ってね!」
「なによ、フラフラじゃない。そんなんじゃヒーローしっか――じゃなくてっ! ウチの野球部の栄養ドリンク余ってるからあげるね!」
「えっ? ど、ども」
そして教室を出て廊下を歩く途中、彼は接点がないはずの女子生徒達に声を掛けられ、思わずのけ反ってしまった。美人と評判の野球部マネージャーからドリンクを押し付けられた龍太は、ぽかんとしながら会釈だけを行い、そそくさとその場を立ち去る。
そんな彼を微笑ましく見守る少女達を背に、彼は「俺何かしたっけ?」と自問自答するのであった。
「…
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