エピローグ
第148話 いつも通りの朝
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さな手形が出来ているのだった。
「そんなに嫌なら無理して来なくても……。一応、目覚ましならあるしよ」
「もー、あんたみたいな寝ぼすけがそんなんで起きるわけないやろ! はぁ……頼むけん大人になったら、一回呼ぶくらいで起きるようになってくれな」
「大人になっても起こしに来るのかよ!?」
「えっ、あっ、そ、それは――しゃ、しゃあないけんな、あんたがどうしようもない寝ぼすけやからな! 同級生として、面倒見なあかんけんなっ!」
無理矢理手を引かれながら、龍太はいつまでも居座るつもりとも取れる賀織の発言に、思わず目を見開いてしまっていた。その瞬間、眠りが覚めた彼の脳裏に、彼女の告白が過ぎる。
これから、いつ死ぬかもわからない世界に飛び込もうという自分に、恋人を得る資格など許されるのか。彼は未だに、その答えを出せずにいた。
いつか自分が居なくなった時の彼女のことを憂いながらも、龍太は決してそれを表情に出すまいと、顔の筋肉に全力を注ぐ。自分が弱気な顔をすれば、彼女を心配させてしまう。それだけは、鈍い彼でもわかっているのだ。
「……ずっと」
だが、それにばかり気を取られている龍太の罪は大きい。短くも大きな意味を持つ、彼女のこの一言を聞き逃してしまったのだから。
――そして、それからの道中も、龍太に取っては実に見慣れた光景ばかりなのであった。
「おぉ〜、なんか今日はいつもよりアツアツって感じじゃのう、龍太! 賀織ちゃんとしっかり手ぇまで繋ぎおってからに!」
「ちょっとあんた! サボってないで仕事しなさいな! 油売ってると晩飯抜きよッ! ――あ、賀織ちゃん行ってらっしゃい! 今日も可愛いわねぇ」
「おっと、うひーこえぇこえぇ。……おい龍太、これだけは言っとく。結婚ってのはな、しない内が華なんだよ……」
通学路である商店街を通る都度、顔見知りの八百屋や魚屋に冷やかされるのも、もはやお約束と化していた。
完全に尻に敷かれた夫婦関係を目の当たりにした龍太は、将来の自分を見ているような錯覚に陥り、深くため息をつく。その隣では、賀織が照れるように頬を掻いていた。
エールとも言える町民の言葉を背に受け、商店街を抜けた先。その眺めも、普段とさして変わることはなかった。
一人、そこに立っている人間が増えているところを除くならば。
「……なぁ。もう普通に横切ってもいいんじゃないか? 今日は隣におばさんもいるしさ」
「ア、アア、アタシが恥ずかしいからいけんッ!」
娘を案じ、矢村家の玄関前を徘徊する矢村武章。その傍には、夫を鋭く見張る母が仁王立ちで佇んでいた。
基本的に自分や娘の味方である母が付いている以上、心配することはないと判断する龍太。だが、「好きな相手を親の前に連れ出す」ことに緊張す
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