第147話 迫り来る終末
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つめる母さんの眼差しも、自分の子供に注ぐような暖かさを滲ませている。
――どうやら、母さんなりにも納得しようとしてくれているらしい。なんとか、着鎧甲冑での活動を続けることは許してもらえそうだ。
「龍太君っ! 頑張ろっ! 頑張ろうねっ!」
「あぁ。所有資格の試験のこと……教えてくれるか?」
「うん、もちろんっ!」
親に褒められた子供のように、救芽井は無邪気に大はしゃぎしている。そんな彼女の様子を見て、周囲のみんなも一安心したように顔を綻ばせていた。飛び跳ねる彼女の体に合わせて、そのたわわな胸が上下に揺れているのは――ご愛嬌ってことにしとくかな。
これからは親父の修練にヒィヒィ言いながら、救芽井と所有資格のための試験対策に挑むわけか……。自分で言い出しておいて難だが、退院しても元気でいれる気がしないぜ。
……けど、悪くない、と思う。そんな毎日でも、得られるものは確かにあるんだから。
しかし、その時。伊葉さんと古我知さんが穏やかな面持ちで俺に歩み寄り――
「だが、その前にまずは一般的な学業からだな、一煉寺君。今日は八月二十九日……君も近々退院する予定らしいし、すぐに学校が始まるだろう」
「そうそう。着鎧甲冑の試験より先に、学校の勉強をしないとね、龍太君」
――衝撃の事実を告げてきた。二人とも、俺の肩を優しく撫でながら。
に、二十九日……!? もうそんなに経ってたっけ!?
確かに十日も寝てたらしいから、それくらいでもおかしくないけど……イロイロありすぎて、今まで全然気が付かなかったッ!
「……あ」
そして、次の瞬間――俺の精神は、ある境地に達した。
それは、夏休みという悠久の安らぎを経た人間が、誰しも一度は到達するであろう、絶望と恐怖の次元。
二学期という悪夢の襲来さえ及ばない、人類共通の災厄にして、破滅の象徴。
その受け入れ難い現実を思い起こし、俺はただ独り戦慄する。
「宿題――やってねぇ」
迫る終末に、抗えない弱者の如く……。
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