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フルメタル・アクションヒーローズ
第146話 進撃の母上
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我が一煉寺家であったが……俺が久美との結婚を機に、本家の寺を去ってしまったからな。主のいない寺は廃れ、一煉寺家は一般家庭に成り果てた。そうして戦いから離れていた俺達では、どうにもならなかったのだ」

 視線を落とし、自嘲気味に語る親父の瞳には、現実を重く受け止める『無念』の色が色濃く湛えられていた。どうにかしなければならなかったのに、どうにもならなかった。そんな悔しさが、如実に現れている。

「――そして、町を救ってくれた彼に対し、我々は名誉町民賞を贈ったよ。精一杯の感謝を込めて。彼は高校を卒業した後、あの姉妹を連れて松霧町から姿を消したが、我々は感謝の気持ちを忘れることはなかった。……日本政府から『瀧上凱樹に関する一切の情報を絶て』と圧力を掛けられても、な」
「……!」
「具体的に瀧上凱樹って子が何をしたのかは、ママ達も知らされてはなかったの。ただ何となく、彼がものすごく悪いことした、ということしかね。だからってあの子を『居なかったことにしろ』だなんてママ達は納得出来なかったけど、小さな町じゃ政府の役人さんには逆らえなかった。だからせめて、ちゃんと彼を知ってる当時の人達だけは、しっかりと覚えていてあげよう、ってことになったのよ」
「商店街に勤務している交番のお巡り君は、彼の後輩でな。彼に憧れて警察になったらしいが、随分と悔しそうだったよ。確か、二年前の冬に現れたスーパーヒロインについては、瀧上君の面影を重ねて大喜びしていたな。この町には、やっぱりヒーローが必要なんだ、とね」

 ……瀧上凱樹は一国を滅ぼし、四郷姉妹を苦しめ続けた悪であり、殺すべきとまで言われた存在。それは揺るぎない事実であり、直に彼と戦った俺にとっても、避けようない「現実」だ。

 それでも、親父や母さんにとって――昔の彼を知る人にとっては、今でも彼は「正義の味方」だったのかも知れない。そのギャップに対し、彼の顛末を知った人達は、何を思うのだろう。

「救芽井樋稟君が務めていたという『救済の先駆者』というスーパーヒロインや、お前が担ったという『救済の超機龍』が、この町のヒーローとして容易に受け入れられたのは、瀧上凱樹という『前例』があったことに因るのだろう。彼自身は悪に染まったのかも知れんが、彼が残した『気持ち』は正しい姿のまま、この町で息づいている。俺は、そう信じたい」
「瀧上君が悪者になったとしても、助けられたママ達としては庇ってあげたい。……でも、政府の役人さん達には怖くて逆らえない。だからせめて、彼のように頑張ってくれるヒーローのことを、全力で応援してあげたいのよ。少なくとも、昔を知ってる町のみんなは、ね」
「……そう、か……」

 あれ程のことをしてきた瀧上にも、こうして慕ってくれる人達がいる。それは、俺を戸惑わせるには十二分の事実だった。


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