第145話 お見舞いラッシュ
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「姉妹でこの町で暮らす……って、本当なのか?」
「えぇ。凱樹のいない研究所跡に居たって、暮らしようがないし……何より、色々と思い出すだけよ。妹みたいに、私もそろそろ新しい人生を探してみるわ」
俺の眼前で今後を語る鮎美さんの口調は、どこか投げやりだ。救芽井達と談笑しつつ、伊葉さんと一緒に古我知さんを慰めている妹を見つめる表情も、どこか儚い。
夢に破れた大人――とでも云うべきなのだろうか。かつて恋していたヒーローの末路を目の当たりにした彼女の人生は、どこまで変わっていくのだろう。
「彼が――凱樹がどうなっても、私は彼の味方でいようとしたのかも知れない。彼を研究所に匿ったのも、十年間あそこで過ごしたのも、きっと私自身の歪んだ意思で選んだことだったのよ。誰に強いられたわけでもない、私個人のエゴ」
「でも……それだけじゃないんだろう? 四郷を守るためにも、あの研究所は必要だったはずだ」
「……そうね。その鮎子が、目の前で凱樹にバラバラにされた時、ようやく踏ん切りがついたわ。もう、『瀧上凱樹』はいない、ってね」
俯き、自嘲気味に笑う彼女。大切だった人との長い戦いを終え、残されたのはたった一人の妹のみ。そんな結末を迎えた彼女の心境は、俺には想像もつかない。
ただ、あの瞬間に瀧上のことを「諦めた」ことだけは理解できた。失ったものは大きいのかも知れない――が、今の彼女は何者にも囚われていない。
政府の監視付きというリスクは伴うものの、今までよりは自由に生きられるのではないだろうか。
――そういえば、政府の監視ってどうするつもりなんだろう。もしかして、救芽井エレクトロニクスに居たグラサンのオッサンみたいな、厳つい連中が付きっ切りで……?
「でも、悪いことばかりじゃないのよ。あなたのおかげで鮎子は助かったし……梢ちゃんが財力にモノを言わせて、監視役を買い取っちゃったんだから」
「あいつかよッ!?」
相変わらずの強引さに、思わず突っ込んでしまう。「監視は親友の務めざます!」とか叫んでそうだもんなぁ、あの娘は……。
でも、正直安心した。これなら、四郷姉妹は保護されたも同然ってことじゃないか。
「みんなが助けてくれたおかげで、妹も私も救われた。『外の世界』に、帰ることができたの。こんなありきたりの言葉で伝わることじゃないけど――感謝してるわよ、龍太君。あなたのしたことは、決して同意できるものじゃなかったけど……私も鮎子も、強く否定しようとは思わないわ」
「どういたしまして。……ま、いいよ気にしなくて。俺、それが『仕事』なんだからさ」
「……ふふ、さすがね。妹が新しい恋に目覚めるわけだわ。私もそろそろ、イイ人探しちゃおうかしら?」
冗談めかして笑う彼女は、俺から視線を外すと、僅かに熱のある眼差しを古
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