第144話 確かな体温
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を見つめていた。虚しさはあれど、憑き物が取れたことには違いないようだ。
結果的に瀧上を殺したことになり、復讐を果たしたことで気持ちに決着が付いた……というのも、あながち悪い結末ばかりではないらしい。確かに素直に喜べるオチではないが、ズルズルと復讐心を引きずり、彼まで憎悪に歪んでいくよりはマシなのだろう。
――そう。古我知さんの戦いは、もう終わったのだ。救芽井エレクトロニクスが久水財閥を味方に付けたことで、着鎧甲冑が埋もれていくことはなくなり、瀧上の死が確定したことで、両親の仇も討たれたのだから。
瀧上の死も……仕方、ない。元々、瀧上の生存などありえなかった。すぐに殺されなかったのも、俺のわがままが生んだ結果に過ぎないのだ。
彼の心を否定する権利は、俺にはない。
「……剣一、さん」
その時、久水と一緒に部屋の隅でうずくまっていた救芽井が、泣き腫らした瞳で古我知さんを見上げた。そんな彼女の眼差しに、二年前のような敵意の色はない。
両親をさらわれても。敵対しても。殴られても。縛られても。兄と慕っていた面影を捨て切ることは、できなかったようだ。
そんな彼女に注がれる、古我知さんの視線も――二年前のような鋭さは、失われている。
「もう、怖いこと、しない……?」
「……そうだね。もう、しないよ。今まで、ごめんね。樋稟ちゃん」
縋るような儚い瞳。妹を見守るような、暖かい面持ち。それが交錯している今ならわかる。これが、本当の二人なのだと。
自分を気遣うような発言を受けた救芽井は、再び顔を伏せ、泣き始めてしまう。だが、その声色はさっきまでとは違う雰囲気を纏っていた。それが意味するものを彼女自身に問うのは、野暮だろう。
「……龍太君。自分を支えてくれた家族を裏切っておいて、こんなことを言えた義理じゃないのはわかってるけど……曲がりなりにも、彼女の傍に居た人間の一人として、言わせて欲しい」
「……」
「この娘を――頼むよ」
彼女にとっての兄として生きてきた、古我知さん。そんな彼の懇願を聞き、俺は無言のまま静かに頷いた。
救芽井に付き合い、彼と戦うことになった二年前のあの日から、こうなることは決まっていたのかも知れない。彼女の夢に感化され、きっかけになった本人すらおののく程の「怪物」に成り果てる、という未来は。
彼は今後も、「妹」を泣かせないために俺を否定する立場を取るだろう。それは構わない。
だが、それで俺の考えが揺らぐこともない。古我知さんには悪いが、やはり俺は「普通」のままではいられないようだ。
瀧上が死ぬとわかってからは、より一層考えが固まっちまったからな。何があっても、どんな奴でも助けられる、そんなレスキューヒーローにならなくてはならない、と。
――もう
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