第142話 二つの罪
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そうか。君らしい、と言えばらしいのかも知れんな。そういう、自身の安全性を見失いがちになるところは」
「ほっとけ。で、二つ目って何だ? 俺のへそくりでも勝手に調べたのか」
「君のへそくりを知ったところでどうにもならんよ。……自分の左肘を、見てみい」
「……?」
この重苦しい空気を変えようと、敢えて茶化すような冗談を飛ばしてみるが、ゴロマルさんはニコリともしない。
俺の肘が、どうしてそこまで深刻なムードに繋がるというのだろう。確かにヘシ折られた部分ではあるが、感覚的には何の痛みも――
「これは……」
「二つ目の罪。それが、その傷じゃ」
――ない。ないが、消えたのは「痛み」と「腕の機能」くらいだったらしい。
青い患者服の袖を捲った先に見えたのは、花が開くように肘全体に広がった、凄惨な傷の痕。不完全な皮膚同士が、傷を塞ぐために強引に支え合っているかのような、あからさまに不自然で不気味な形跡が残っているのだ。
色も肌触りも、普通の皮膚とはまるで違う。外見からして、外部からの何かに歪められたかのようなイビツさが滲み出ていた。
他人の皮膚を剥ぎ取って貼付けても、ここまで悍ましい痕跡は残さないだろう。それ以上に人間の道を外れた何かを、この傷痕から感じてしまう。
「また随分と、厳つい傷痕が残ったもんだな。メディックシステムとかじゃ治らないのか?」
「治るはずがない。その傷は、ここにお前さんを入院させる前に使った、メディックシステムの治療で付いた傷なんじゃからの」
「なんだって……?」
メディックシステム――どんな疲労や怪我も短時間で治してしまう、救芽井家特製の医療カプセル。俺自身も世話になったことがある、チート級の医術システムだ。
異常に電力を消費する欠点のせいで、救芽井エレクトロニクスの商品枠からは外され、関係者くらいしか存在を知らないような幻の存在になったはずなのだが……どうやら、今回の件で付いた傷の治療のため、二年ぶりにお世話になっていたらしい。
しかし、妙な話だ。どんな怪我だって治してしまうメディックシステムで、傷痕が残る……?
「ワシらがなぜ、メディックシステムを商品化しなかったか、わかるかの?」
「電気代が掛かり過ぎてコストがキツイからだろ? 救芽井から聞いてる」
「他の理由も、考えてみたことはないか? 例えば、お前さんの脇腹とか」
俯いた状態のまま、ゴロマルさんは俺に対して気後れするような様子で語り続ける。俺の脇腹……? 昔、古我知さんに付けられた銃創の痕のことか?
確かに随分と長く残ってる気はするが、数年経てば消えるくらい小さな傷痕だし、そんなに気にするようなところじゃ――まさか。
「……メディックシステムは人体の細胞を操作し、自然治癒の数百
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