第141話 スーパーヒーローは目指せない
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足元、背後、目の前。ありとあらゆる場所へ、瓦礫が降り注いで来る。
この満身創痍の状況では、落ちてきた瓦礫を蹴り返すことも素早くかわすこともできない。そもそも、スーツ自体の機能がほぼ停止してしまっているのだから、抗いようもないだろう。
――つまり、もし頭上に落ちて来られても、こっちには防ぎようがないのだ。それにボロボロのマスクでは、防護効果も期待できない。
今こうして生きていられるのは、ただ運がいいだけ。次の瞬間には頭から瓦礫に押し潰され、三人全員おだぶつになるかも知れないわけだ。
運の良し悪しに生かされたまま、圧死の脅威に怯えなければならない。その上、幸運に恵まれ螺旋階段にたどり着いたとしても、今度は海水に追われることになる。
……先のことを考えれば考えるほど、気が遠くなっていく。置かれている状況を冷静に見つめようとしたら、頭が変になってしまいそうだ。
「フゥッ……ヒューッ、フゥッ!」
あとちょっと。あと少し。そんな距離になっていくほど、吸い寄せられるように足取りが速くなっていく。
今この瞬間に死が訪れる。その確率から、一秒でも早く逃れるために。
「フゥッ、フゥ、フッ、ウッ……!」
生きたい。死ねない。まだ、俺は死にたくない。こんなところで、終われない。
その想いだけが、俺の身体をただひたすら突き動かしている。力尽きた人工筋肉ごと、古我知さんと瀧上を引き連れて。
「――う、んぐうぅうッ!?」
そして、格納庫の内側まで半歩程度の距離に来た時。俺のすぐ真後ろに、一際巨大なコンクリートが落下した。
「グッ……ンンッ!」
その衝撃は今までのどのような落石よりも激しいものであり、その激突が生んだ波動で、俺は背中から突き飛ばされるように格納庫へ転がり込む。二人を離すまいと、口元と右腕に、残された力の全てを注ぎながら。
「うっ、く……!?」
慌てて身を起こし、浸水に足元を取られながら立ち上がる俺は――その瓦礫のサイズに、戦慄を覚えた。
天井全体の一割を占めるのではないか、と思ってしまう程の大きさ。グランドホール全体が崩落する瞬間が、間もないことを示しているのだろう。あれ程の落石がまだ続くとしたら、間違いなくこの階層は一分と持たない。
それにしても――あと僅か、ペースアップが遅れていたなら……いや、今考えるのは、よそう。
今、俺は生きている。まだ生かされている。その事実だけで十分だ。
太ももを浸す海水に動きを阻害されながらも、俺は踵を返して螺旋階段へ向かう。
「フゥッ……! ふんッ!」
遥か真上を目指して伸びている、錆び付いた茶色の脱出経路。その一段目に右足を乗せ、俺は勢いよく海水から左足を引き抜いた。
「ふッ、ぐっ
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