第138話 貴様にだけは
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
知さんにああ言った以上、もう俺は「普通」のままでいるわけには行かないのだから。
「――ゴォッ!」
「ァ、がッ!」
そんな俺に待ち受けていた現実という強敵は、思いの外手強いらしい。生身のまま抵抗を繰り返していた俺の腹に、ひしゃげた鋼鉄の足底が突き刺さる。
骨が軋み、内臓が圧迫され、胃の中が悲鳴を上げて口外へと飛び出す。衝撃に歪んだ視界と、朦朧としていた意識が元に戻り始めた頃には、俺は数メートル吹っ飛ばされた先で、うずくまって血を吐いていた。
「……おォ、う、えっ……! げほっ、おぇえッ……!」
コンペティションとして彼と戦っていた時も随分痛い目には遭ったが、ここまでではなかった。着鎧している時と生身の状態とでは、受けるダメージが違い過ぎる……というのは理屈としては当然のことではあるが、実際に喰らってみるとその格差に愕然としてしまう。
ここで、彼に殺される。その非情な命運を、一番身近に感じた瞬間だった。
「ふっ、ぐ、うぅ……あァッ……!」
瓦礫に額を押し当ててうずくまるだけで、身動き一つ取れない俺の身体。どれだけ「動け」と心で叫んでも、震えるばかりで立ち上がれる気配が、まるでない。
それほどまでにダメージが大きかったのか。それとも、今の一撃で知らないうちに戦意を刈り取られていたのか。
混濁しかけている今の意識では、それすらもわからない。動けなければ死ぬということだけは、揺るぎようのない事実だというのに。
覚悟を決めて戦うにせよ、恐れをなして逃げるにせよ。身体が動かなければ、「死」を受け入れるしかない。なぜ、俺の身体はそれすらも理解してくれないのだろう。
「……!」
俺は「せめてもう少しバッテリーがあれば」と、後悔の念を込めて右手首を見遣る。すると、さっきまで俺の手首に収まっていたはずの真紅の腕輪は、いつの間にかその姿を消していた。
どうやら、さっきの一発に吹き飛ばされた衝撃で外れてしまったらしい。
……不運なことってのは、重なるもんだな。これじゃあ今バッテリーが残っていたとしても、同じことじゃないか。
想像しうる、全ての「可能性」を潰された。「腕輪型着鎧装置」を見失った瞬間に感じたのは、まさにそれだったのだ。
「ゴ、ゴォ……コォ、コォーッ……!」
抗う力も気力も奪われ、無力な人形に成り果てた俺に、正真正銘の破壊神がじりじりと迫る。意識障害がよほど深刻なのか、その足取りは今にも転びそうなほどに不安定なものになっていた。
そのうち勝手に倒れて、動けなくなってくれないだろうか――という無駄な期待もしてみるが、どうやら神様はそこまでこちらの都合を考慮してはくれないらしい。
「ゴォ、コォ……オォッ……!」
「……く、くそったれめッ……!」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ