第137話 それは歪な正義の味方
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な威圧が、噴火を引き起こしたのだ。闇のように深く険しい、あの威圧が。
……際限なく広がる闇となり、あらゆる空間を飲み込んでいく憎悪。それが人の姿を借り、具現化している存在を、俺は――俺達は知っている。
猛烈な水しぶきと共に俺の背後に浮き上がった「ソレ」は、かつてない程に負の感情を剥き出し、俺の背中からグランドホール全体を闇で覆い尽くさんとしていたのだった。
――その名は瀧上凱樹。俺と同じ、歪な正義が生んだ怪物なのだ。
「龍太君ッ!」
俺が振り返り、憎悪と怨念に汚染された眼光と視線を交えた時には、既に全てを破壊する鉄拳は振り上げられていた。
脳裏に過ぎる、死。
それを覆したのは、声を荒げて俺に躍りかかる白銀の騎士だったのである。
俺に迫る古我知さんの瞳に、さっきまでの敵意はない。あるのは、焦燥の色。
彼は急に背後から現れた「怪物」に、反応しきれなかった俺の肩に再び手を置くと――強烈な勢いで水平に突き飛ばしたのだった。
「うあッ……!」
憎しみも敵意もない。ただ俺を助けるためだけの、捨て身の行為。
彼は敵対しているはずの俺に、そこまでのことをしていたのだ。悲しみを繰り返させまいという、己自身の正義のために。
だが、そんな彼に待ち受けていた現実に、情けはない。
「新人類の巨鎧体」の爆発から生き延び、亀裂だらけの満身創痍となりながらも、執拗に俺達を付け狙う灰色の鉄人。
そんな彼が振り下ろした鋼鉄の拳は、右腕を除く古我知さんの手足を全て、再び奪い去ってしまったのである。まるで、蝶の羽を裂くように。
「――ぐあッ!」
力無く地に落ちる古我知さんの身体。瀧上さんは、立ち上がることすらも許されない彼の腹を蹴り上げ、数メートル先へ吹き飛ばしてしまった。
もはや戦う力も残されていないというのに、この仕打ち。「歪んだ正義」とはこれほどの狂気を生むのかと、俺は凄まじい戦慄を覚えさせられてしまった。
……そして、その恐怖に次いで浮かんできた感情がある。怒りだ。
古我知さんを蹂躙した瀧上さんだけにではない。偉そうに語っていながら、また何もできず、彼がやられる様を見ていただけだった俺自身にこそ、だ。
「――わたぁああぁあッ!」
弓矢から放たれた一閃の如く、俺の赤い拳が鉄人の顔面へ向かう。効く効かないは問題じゃない。
ただ、殴らずにはいられない。それだけだったのだ。
「……がッ!?」
しかし、現実という障壁はそれすらも許さない。
彼の顔面を確実に捉えたはずの拳が、ひしゃげるような鈍い音と共に、弾けるような激痛を浴びたのである。
「あ……!」
だが、俺に絶望を与えたのはその痛みだけではない。
その痛みを受けた手は――ユ
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