第137話 それは歪な正義の味方
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気持ちを抑えられないっていう、あんたの事情ももっともだ。瀧上さんがイイ奴になるわけないってのもわかる。ただ、俺は『死にかけてる人を助ける』っていう、俺の仕事を済ますだけだ。そんなに仇を討ちたいなら、後で裁判にでも掛ければいい。悪いが、今だけは邪魔しないでくれ」
「……復讐、か。確かにそれもある。だけど、僕が君をこうして引き留めているのは、僕自身の都合のためだけじゃない。君と、君を愛する女の子達のためでもあるんだ」
「どういうこった?」
復讐のためではなく、俺と――たぶん、もしかして、あわよくば、ものすごく幸運な話なら、矢村と久水と救芽井……の、ため? なんでそこで俺達が出て来るんだ……?
今まで肩を掴まれながらも、特に振り返ることなく肩越しで話し続けていた俺だったが、その言い分に思わず首を後ろへ向けてしまう。
「はっきり言おう。今の君は、瀧上凱樹とそう変わらない――『怪物』になりつつある。自らの正義のために、際限なく他者を傷付けるか。それとも自分自身を傷付けるか。君達二人の違いは、その程度でしかないんだよ」
そして、重くのしかかるような声を響かせ――古我知さんは、俺を「怪物」と断じた。……俺と瀧上さんが、同じ……?
「君は着鎧甲冑の矜持にこだわり過ぎるあまり、樋稟ちゃんや甲侍郎さんでも及ばない程に『人命救助』という使命感に囚われている。君の生来の真っ直ぐさがそうさせたのかも知れないが……そんなものはもう『実直』だとか、『ストイック』などという次元じゃない。瀧上凱樹と同質の――常人の理解を超えた『妄執』だ」
瀧上さんと同じ妄執――か。となると、どうやら俺は伊葉さんが望む正義の味方にはなり損ねてしまったらしいな。
「和雅さんは、客観的に状況を見て、冷静に正当性のある行動ができる人間を『正義の味方』としていた。その考えに準えるならば、君の主張は『歪な正義の味方』そのものなんだよ」
「……伊葉さんが望んだようにはなれなかったかも知れないがな。だからといって、辞める気はないぜ。あの人に認められたくてヒーローやってるわけじゃないからな」
「君はそれでいいのだろうな。見ていればわかる。だが、君の周りはどうかな?」
「なに……?」
古我知さんは責めるような強い口調で、さらに俺を圧迫する。何が彼をそうさせているのだろうか。嫌なところはあれど、基本的には温厚な彼がここまで高圧的になるなんて、なかなかない。
「別れる寸前まで君を案じていた樋稟ちゃんや梢君。君のことで何度も泣いていた矢村ちゃん。そして、瀧上凱樹の脅威を知っているからこそ、彼に挑もうという君の行為を恐れていた鮎子君。君を愛している女の子達が、この先も君を失う恐怖に晒され続けることになるんだぞ。君の、歪んだ正義のために!」
――ッ!
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