第136話 古我知の懸念
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かけているこの空間に残りたいと抜かすなど、正気の沙汰ではないだろう。俺自身もわかっているつもりだ。
――しかし、残らなくてはならない。
この力で助けるべきか、そうでないか。
俺を迷わせるその存在が、まだこのプールの下に潜んでいるのだから。
「……なるほど。そういうことか」
一方、古我知さんはそんな俺の意図を読んだように頷くと、
「矢村ちゃん。鮎子君を連れて上に向かってくれ。僕にもやることができた」
「えっ? ……えぇええぇえぇッ!?」
俺から受け取った四郷の首を、さらに矢村に託すのだった。機械仕掛けとは言え、いきなり人間と変わらない外見の女の子の生首を押し付けられ、彼女は目を回して軽いパニックに陥っている。
どうやら、古我知さんも俺の意図には気づいているらしい。マスクの下に見える眼光が、刀のように鋭く細まっているのが見える。
「えっ……ちょ、龍太!? 古我知さん!? 二人とも何考えとんっ!? 早うここから出んと、ぺしゃんこになってまうんやでッ!?」
矢村はいきなり居残ると言い出した俺達に驚愕し、まくし立てるように抗議の声を上げた。
――参ったな。俺の考えに気づいた以上、恐らくは古我知さんも簡単には帰ってくれそうにない。彼が戦う経緯を鑑みれば、俺が企んでいることなど決して許されないのだから。
しかし、こちらとしても引くわけにはいかない。これは、救芽井の理想の根本に関わる問題なのだから。
「……よし、頼むぜ矢村。なんとか四郷を皆のところへ送ってやってくれ」
「ふ、ふぇえぇええぇ!?」
本来任せるべきでないのは百も承知だが――これ以上悩むのに時間を掛けて、四郷をより危険に晒すよりマシだ。
俺は若干混乱したままの彼女の肩をポン、と叩くと、身体を翻してプールと向き合う。
そんな俺の様子を、古我知さんは寸分も見逃さず凝視している。事と次第では許せない、と言わんばかりに。
「ど、どどど、どういうことなんや龍太ッ! だいたい、確かめないかんことって何やッ!?」
「悪いが、詳しく説明してる時間はないんだ。早く四郷を所長さんのところまで送らなきゃ、彼女が危ない。わかるだろ?」
「や、やけど龍太ぁ! 早う帰らんと崩れてまうって言いよるやろッ! 早う、早う逃げんとッ……!」
「心配すんなって。俺も古我知さんも、ちょっとしたらすぐに戻る。……帰ったら、皆でメシでも食おうぜ」
「龍太……で、でもっ……」
俺の無茶など、もう見慣れたということだろうか。矢村は弱々しい声で縋るように接して来るが、「新人類の巨鎧体」の時ほど強く追及してくることはなかった。
……一度言い出したら、テコでも動かない。そんな面倒な俺の側面を、少し前に見せられたばかりだから……
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