第126話 鮎美の賭け
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――だが、君の言う通り、むざむざ殺される謂れもない。全員に、隙を見て撤収する用意をしておくよう伝えてくれ」
「――わかりましたわ。お兄様、よろしくって?」
「……あぁ。癪に障るところはあるが、命あっての物種だ。それに、樋稟や鮎美さんを危険に晒すわけにも行かん」
茂さんは狂喜の叫びを上げ続けている瀧上さんを一瞥すると、目を背けるように踵を返す。僅かに震えていた彼の拳を見れば、それが不本意な選択であったことは明らかだろう。
その様子を静かに見つめていた久水は、程なくして手招きするような仕種のサインを見せると、全着鎧甲冑をグランドホールのアリーナから撤収させた。彼女の手に集うように、G型三人と茂さんが客席に向かって跳び上がっていく。四郷も「必要悪」に連れられ、逃げるようにその場を飛び出していた。
「龍太君、私達も!」
「あ、あぁ」
そして、サインがわからない俺も救芽井に釣られるように、客席へと引き返す。
「ハハハハ……ハハ、ハハハハ! ハハハァアアッ!」
――悍ましい程の瀧上さんの「凶気」に、後ろ髪を引かれながら。
瀧上さんを除く全員が結集した、客席の一部。救芽井に続く形でそこに降り立った俺を一番に出迎えたのは、矢村だった。
「龍太ぁあっ! よがった……無事でよがったぁあ……!」
「おわっ!? や、矢村、落ち着けって。まだ無事に片付いたわけじゃないんだから」
「えぐっ、ひぐっ、そんなん……そんなん言うたってぇえッ……!」
胸の中でひたすら泣きじゃくる彼女の顔は見えないが――随分と心配を掛けてしまったことだけは確かなようだ。
「龍太様の言う通りざます。矢村さん、安心するにはまだ早過ぎますわよ」
一方、瀧上さんと、その背にそびえ立つ「新人類の巨鎧体」に鋭い眼差し注ぐ久水は、寸分も気を抜かずに険しい表情を浮かべている。顔だけでなく、全身から噴き出されるかのようなその凄みに、矢村も思わず泣き止み、息を呑んだ。
久水の視線をなぞった先に見える灰色の狂人は、足元が水で満たされ始めてもなお、その場に立ったまま笑い続けている。アリーナへの浸水が本格化していることに気づいていないのだろうか。
――それとも、こんな水ごときで自分は死なない、という自信の現れか。
そして、多くの人間が固唾を飲んで見詰める中、アリーナに流れ込んできた海水の高さが彼のふくらはぎに達した時――その笑いは、唐突に止まった。
まるで彼自身が事切れてしまったかと思う程、その瞬間は突然に訪れていたのだ。
だが、彼の身体は未だに動き続けている。長きにわたり溜め込んでいた力を、解き放たんとしているかのように。
そう。あの動きは、震えは……命の終わり等とは程遠い、新たな段階への変化の産声。瀧上さんは
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