第121話 鉄の咎人
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程の人々を苦しめて、傷付けてきた。そんなの、ヒーローのすることじゃないでしょ? 鮎子も私も、今のあなたの姿を望んではいないの。――大丈夫、あなただけに罪は負わせない。私も一緒に行くから、もうあなたが戦うことなんて――』
――所長さんが自らの願いを、全て語り終えるよりも早く。
「そうか」
瀧上さんの光の鞭が――審判席全体をガラス張りごと切り裂いた。
「……え?」
理解が、追いつかない。
いや、理解することを本能が拒否しているのだろうか。
目の前で起きた惨劇を、俺は間抜けな声を上げて眺めることしか出来なかった。
激しく飛び散るガラスや通信機の破片。それらはアリーナの遥か上を舞い――雨のように、白い床に降り注ぐ。
まるで、自分達の想いを軽々しく踏みにじられた二人の、涙のように。
「……お、姉、ちゃん……!? お姉ちゃん、お姉ちゃんっ……お姉ちゃああぁああんッ!」
「か、和雅ァァアァッ!」
そして、状況をいち早く理解してしまった四郷と甲侍郎さんの悲鳴に連動するように……客席もアリーナも騒然となる。
「い、いやぁあッ! いやぁああ! なんでぇ、なんでぇえぇッ! お姉ちゃん、お姉ちゃぁああぁあんッ!」
「な、なんでなん!? どうなっとん!? こ、こんなん、こんなんッ……!」
「おッ……落ち着きなさい、二人共ッ! こ、ここで……ここでうろたえている場合ざますかッ!」
突然の惨劇にパニックに陥った四郷と矢村。二人を抱き寄せ、懸命に励ましている久水もさすがにショックが強いのか、その顔にはまるで血の気がない。
くそッ……! なんだよ、なんだってんだよッ! どうしてこんなことにッ!? 俺は、俺はなにをやってんだッ!
状況に理解が追い付いていくのに比例して、自分のふがいなさとやるせなさ、そして瀧上さんへのムカッ腹が全てないまぜになり、膨れ上がっていく。
身体の芯から脳天や足先にかけて広がっていくソレに、もはや止まる気配はない。
「あ、鮎美さん……鮎美さんッ……お、おのれェェエェッ!」
「し、茂さんッ!? ダ、ダメぇぇえッ!」
そして、腹の奥から噴き出す激情に任せ、瀧上さんに向かって挑み掛かろうとした時。
救芽井の制止を振り切り、俺より速く瀧上さんに飛び掛かる人がいた。……茂さんだ!
客席から飛び出して電磁警棒を振りかざし、怒りに駆られるままに襲い掛かる茂さん。本来、俺が辿るはずだったその姿を見て、一気に頭に昇っていた血が引いていく。
――ダメだ茂さんッ! 瀧上さんの鞭には、マンション並に高いところにある審判席を、地面に立った状態から直接叩けるくらいの異常なリーチがあるんだッ! 正面から向かっても、間合いに入る前に捕まるだけだぞッ!
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