第119話 招かれざる客
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
矢筈投《やはずなげ》ッ!」
「なに……いッ!?」
力に逆らわず、むしろその流れに乗り、僅かに「軌道」にのみ干渉する。その理念により導かれた力の濁流は、瀧上さんの巨体を容易に持ち上げた。
死力を尽くした力技でも、踵を浮かせる程度が限界だったとは思えないくらい、彼の鋼鉄の身体は大きく舞い上がる。
そして――受け身を取る反射行動すら許さない速さで、彼は頭部から白い床に激突してしまった。アリーナ全体に、鉄人の墜落による轟音が鳴り響く。
「がッ……!?」
打ち付けた場所は、ヒビだらけのバイザー越しでもハッキリと見える。後頭部の中央部にある急所……「脳戸」だ。
鉄兜にある、脳天から延髄にかけてのトサカのような装飾で守られているようにも見えたが――ボロボロと亀裂から破片が飛び散り始めている様子からして、あのトサカが大して役に立っているとも思えない。
質量の大きい瀧上さんと、小さい俺。
この違いによって生まれるのは――反動の影響力だ。
瀧上さんはパワーはデカいし、トップスピードに乗れば足の速さも相当だが、その分だけ動きの切り返しが困難になる。反面、力も速さも見劣りしている俺の方は、小回りの効きだけは確実に勝っている。
動きを切り返した際に生じる反動は、質量で劣る俺の方が小さい。ならば、こうして急激に方向を転換する動作を見せれば、向こうは目は追いついても身体が付いてこれないはずだ。
つまり、そこを突いて彼を投げ飛ばし――急所を地面にぶつけるように誘導すれば、間接的にダメージを与えられる!
「ぬ……ぐゥアッ……!」
なんとか身を起こした瀧上さんは、頭の後ろを片手で覆い、片膝立ちでこちらを睨みつけたまま動かない。
よく見てみれば、全身の亀裂はさっきの一発の影響で、更に大きなものになっていた。あと僅かでも動けば、装甲全体が剥がれ落ちてしまいそうにも見える。
「やったぁーっ! 行けるでっ! 行ったれ龍太ぁっ!」
「龍太君っ……!」
形勢が変わったことを客席側も感じ取ったのか、矢村のはしゃぎっぷりにつられるように、救芽井の顔色に「安堵」が現れていた。
だが、久水兄妹と四郷の表情は固いまま。このままで終わるわけがないと、警戒を促しているかのように。
……それは、俺も同じことだ。国まで滅ぼすくらい、さんざっぱら暴れてきたというこの人が、この程度で参るとは思えない。
「――死にたいのか。そうか、死にたいんだな貴様はァアアァアッ!」
「……ッ!」
両脚に力を込めて雄々しく立ち上がり、ひび割れた赤い装甲を自ら引きはがす様を見れば――そう考えるのが普通、というものだろう。
衣服を破り捨てるように取り払われた、亀裂だらけの「勲章」。その中から現れたのは――
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ