第115話 涙を流せる身体なら
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そんな彼女達の様子を一瞥すると、俺も口を閉ざして、手すりから乗り上げていた足を降ろした。そして、改めて四郷と向き合う。
こうして正面から相対してみれば、どれだけ彼女が「小さかった」のかがわかる。今にも折れてしまいそうな細い腕。胸元くらいまでの高さしかない身体。今まで俺と渡り合ってきたライバルだったとは、到底思えない姿だ。
だが、それは彼女と会ったばかりの俺の主観でしかない。彼女自身が、瀧上さんとの関わりによって生じた十年間の中で感じてきたことなど、俺には想像できるはずもない。
……だが、少しだけ予想できるところがある。俺達とそう変わらない歳から、十年間。その間、絶望だけを感じながら生きてきた彼女にとって、その根源が息を吹き返してしまうことが、何より恐ろしいのではないだろうか。
十年間という時間の中で、風化しつつあったはずの記憶が、残酷なまでに鮮明な形で掘り起こされようとしている。その状況が彼女にとって、耐え難い苦痛であるということだけは、その痛ましい姿を見るだけで嫌というほど伝わってしまうのだ。
だが、そうだとして、俺に何ができるだろう? 俺は何をすべきなのだろう? 「人の命を救う」、それだけを目指した救芽井エレクトロニクス――いや、「着鎧甲冑」の名代として。
……簡単なことだ。少なくとも口で言うだけなら、難しくはない。
「――四郷。俺はな、一応知ってんだよ。お前の姉ちゃん……所長さんから、全部聞いた」
「……えっ!?」
「その上で、俺はあの人に挑もうと思う。無茶かも知れない。意味もないかも知れない。それでも可能性があるなら、俺は試してみたい、そう思うから」
俺が周りに聞こえないような小声で囁くと同時に、四郷は目を見開いて俺を見上げる。……まぁ、そりゃそうだろう。全部知ってる上で喧嘩売ろうとしてるバカなんて、向こうからすれば天然記念物ものだ。
救芽井達は、俺が何かを呟いた途端に四郷の様子が変わったのを見て、何が起きたのかと視線を泳がせる。そんな彼女達を他所に、当の四郷は信じられない、といいたげな表情で声を荒げた。
「……どうして!? なんで!? そこまでわかってて、なんで戦うの!? わからない、わからないよっ!」
「――んなこと言ったってしょうがないだろ、それが仕事なんだもん」
「なっ!?」
「瀧上さんに勝つ。四郷を助ける。それが『人助け』をする着鎧甲冑のお仕事。そんでもって、それをこなせば俺も救芽井にいいカッコできて満足。他になんか理屈が要るのか?」
全てを知った上で戦おうという俺に対し、理解できないと食ってかかる四郷。そんな彼女に、俺は思うままの言葉を並べるしかなかった。
口で言うには余りにも簡単で、実現するには果てしなく厳しい。だが、そうだとしても他
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