第113話 立ち上がる男
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、少し目を離した隙にすっかり定位置に戻ってしまっている。
『ルールは簡単。お互い、一切の道具を使わず、単純な格闘能力のみを以って相手を行動不能にすること。敗北条件は自己の行動不能と、ギブアップの二つになるわね』
『新たな技術の開拓は、武力を求める勢力に狙われることが多い。着鎧甲冑の技術が、兵器化を目論むテロリストに狙われたという「技術の解放を望む者達」事件は、諸君の記憶に新しいだろう。そこで、そうした武力行使に屈して「救命のための技術」を渡してしまうことにならないよう、自分の身とその技術を守れるかを最後の試験とした。我々が一番守らなければならないのは、「自分自身」に他ならないからな』
最後の最後で、まさかの殴り合いだって……!? レスキューヒーローの根底を覆しかねないルールだろう――けど、伊葉さんの話を聞くと、あの一件の当事者としては妙に納得してしまうところがある。にしたって、もう少しやりようがあったと思うけどな……。
「鮎美。オレが試験用にと造った人工知能私兵部隊はどうした? 確かアレを何体撃退できるかを競う予定だったはずだろう」
『うーん、それに関しては本当にごめんね。調整が滞ってて、試験に間に合いそうになかったのよ』
「また整備不良か? 警報の件といい、らしくないな」
所長さん達の説明に口を挟んでいる瀧上が言うには、本来は別のルールだったらしい。彼の口ぶりからして、こんなアドリブ染みた展開は、滅多に起こらないことなんだな。
「『技術の解放を望む者達』……『兵器化』……『テロリスト』、ね……」
俺の隣で説明を聞いていた救芽井が、ポツリと悲しげな声を漏らす。若干俯いているため、表情は見えにくいが――僅かに震えている唇を見れば、あの事件で心を痛めてるってことくらいはわかる。
……そりゃあ、そうだろうな。「着鎧甲冑を世界に広める」。そんな共通しているはずの目的のために、兄妹のように育ってきたはずの古我知さんは、兵器化という性急な手段に出てしまった。そして、救芽井の両親をさらい、「技術の解放を望む者達」を作り出していた……。
本来、争うはずのなかった「家族同士」の戦い。それが世間一般では、ただのテロリストの襲撃事件として片付けられているのだ。伊葉さんの話でそれを思い知らされた救芽井の心中は、察するに余りある。
「……大丈夫。大丈夫だ」
「――えっ?」
だから、その「家族」の輪に居なかった俺にしてやれることは、何もない。……あるとすれば、それはこうして……頭でも撫でてやることくらいだ。
「もう、同じことなんて起こらない。俺達が起こさせない。――そのための、着鎧甲冑だろ」
「……うんっ……!」
自分達の確執が起こした事件だから、誰もフォローなんてしてくれない――とでも思っていたの
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