第113話 立ち上がる男
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、警報装置の誤作動まで起こして……」
「――コンペティション、ってものに関してろくに知ってるわけでもないけど……普通じゃないってことだけは確かみたいだな」
「ああ。……だが、今問い詰めたところで、鮎美さんなら簡単にはぐらかしてしまうだろう。それに、試験自体に明らかな不正があったわけでもない。――気にかかるだろうが、今は第三課目のみに注力してくれ。この試験さえ終われば、追及は後からいくらでも出来る」
ひとまず、ここは茂さんの言う通りにするしかないだろう。俺は、ここではない――どこか遠い場所を見つめるように佇む所長さんを一瞥すると、皆のいる客席に引き返していった。
――確かに、警報装置の一件は誤作動として片付けられてはいる。
だが、どことなく滲み出ているその不自然さには、そろそろ誰もが感づきつつあるようだった。
救芽井も、矢村も、久水も。みんな、腑に落ちない表情を浮かべ、互いの顔を見合わせている。このコンペティションの裏でうごめく何か。それを示すのが、今の警報ではないのか、と。
だが、俺達はここの設備に関して詳しいわけではない。本当に整備不良なんだと突っぱねられても、それを否定出来る材料は俺達にはないわけだ。
警報の時に辺りを見渡していた四郷の反応を見る限りでは、彼女に聞いても何かがわかりそうな様子ではなかった。
もし――あの警報が誤作動ではなかったとしたら。……ここに近づいている影は、「俺の知る人」なのかも知れない。
「警報の誤作動」を知っていたように見える所長さんと伊葉さんを見つめ、俺は静かに最終課目を待つ。
――それから、僅かな時間を挟み。
何かがおかしい。そんな思考が、このグランドホールに充満し、間もなく二十分が経つ頃。
もうじき――第三課目が始まる時間になろうとしていた。
「鮎子。時間だぞ」
「……はい……」
向こうでは、珍しく瀧上さんから四郷に声を掛けている。……だが、四郷の表情はこれまでとは違い、試験課目の発表前から既に不安げな色を湛えていた。
とてもではないが、これから最後の試験に向かう代表者の顔とは思えない。
「……チッ」
その様子に苛立ち、露骨に舌打ちをする瀧上さん。この試験の行く末に安心できなくなったためか、次第に表情も険しいものになっていく。
――このまま、やすやすとは行かせない。そんなサインのようにも見えるのは、きっと思い過ごしではないんだろう……。
『さぁて! 長かったこのコンペティションも、いよいよ最後の課目に突入よ! 第三課目「最低限の自己防衛能力」のルールを説明するわ!』
いつの間にか客席から姿を消し、審判席からグランドホール全体へのアナウンスを始める所長さん。仏頂面で石像のように、客席に腰掛けていた伊葉さんも
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