第113話 立ち上がる男
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突如としてグランドホール全体に轟いた、侵入者を知らせる警報。焦燥感を煽るように響き続けていたその音は――
「……えっ? ど、どしたん?」
「止まった……?」
――鳴り出してから一分近くが経ち、俺達が何事か、と所長さんに問い詰めに行こうとしたところで――
『あら、ごめんなさいね。最近ここの警報装置、ガタが来てて誤作動が多いのよ。びっくりさせちゃったかしら?』
「えっ……!?」
『……あら。みんなして、ハトが核弾頭喰らったような顔しちゃって。ごめんごめん、悪かったわね。もう警報装置の電源は落としてあるから大丈夫よ。お騒がせしたわ』
――ピタリ、といきなり止まってしまったのだ。それに次いで、所長さんのアナウンスが警報に代わってグランドホールに響いて来る。
いつの間にか彼女が身につけていた、パソコンの付属品らしき色使いのインカム。そこに付いたマイクで、スピーカーを使っているんだろうけど……誤作動、だって?
「び、びっくりした……もうっ! 仮にも正式採用を懸けた、公式なコンペティションの場なのですから、設備の点検くらいは綻びのないように願いますっ!」
「あぁ〜ん、怖かったざます龍太様ぁ〜っ」
「そうやそうや――って、ちょっ!? 何どさくさに紛れて龍太にくっついとるんやッ! あんた一番堂々と構えとったくせにッ!」
「――まぁ、何事もないというのなら善しとしようではないか。我々が今見据えるべきは設備ではなく、試験だ」
設備くらいちゃんとしとけ、という救芽井の糾弾をきっかけに、緊張しきっていた矢村達の様子も元通りになっていく。
頬を膨らませてムスッとしていた救芽井の怒りもごもっともなのだが、それに対する所長さんの「てへぺろ」な反応を見る限り、ちゃんと反省しているとは到底思えない。
可愛らしく舌を出して自分の頭を小突くその様は、むしろ反省していない旨を全力で表現するかのようだった。
……いや、そもそも今の警報は本当に誤作動だったのか? あんなスクリーンやらホログラムやら詰め込んでる、ハイテク祭りなグランドホールで、「警報装置の動作不良」なんて……。
「――何か怪しい、という顔をしているな」
「……ん、んー? そうかな?」
隣に立つ茂さんが、怪訝そうな顔で俺を見遣る。どうやら、そこまでわかりやすいくらい表情に出していたらしい。周りと違い、俺だけは険しい顔が戻らないままだったようだ。
「……ワガハイにも、そろそろ何かおかしいと言う感情が芽生えてきたところだ。梢が聞けば怒るだろうが――そもそも、このような得体の知れぬ僻地で正式採用の試験を行い、審査官は元総理大臣の伊葉和雅一人のみであるというこの状況が、単なるコンペティションにしては余りにもイレギュラー過ぎる。加えて、妹を試験題材に使い
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