第111話 着鎧甲冑の矜持
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この先、「戦い続ける」資格が俺にあるのか。試験の続行が許されるのか。その全てが、伊葉さんの放つ言葉に左右される。
やれることはやったと思う。手は――尽くしたはずだ。
後は野となれ山となれ……とはさすがに言い難い状況であるが、実際、俺にはもう、こうして結果を待つ以外のことはできない。四郷の様子をチラリと見遣ってみれば、彼女もややバツの悪そうな表情で伊葉さんの言葉を待ち続けていた。
この勝負が吉と出るか。凶と出るか。きっと誰もが、この一瞬に注目しているに違いない。きっと、客席で興味なさげに踏ん反り返っていた、瀧上さんでさえ。
俺も、救芽井も、矢村も、久水も、茂さんも……そして、四郷も。
みんながどこかで期待し、恐れてもいるであろう結果を、伊葉さんは今、口にする。
重く、シワの伺える口元がゆっくりと開かれ、そこから放たれる、短い言葉。
『――着鎧甲冑とする』
それが、結果であり、全てだった。
「え……」
期待していながら、どこか心の奥で諦めかけていた、彼の口から告げられる朗報。それが現実の事象であると俺自身の頭が理解するには、若干の時間を要した。
時が止まった……とでも言うべきなのだろうか。俺が漏らした声を除く全ての「音」が停止したかのように、このグランドホールの全てが静寂に包まれる。
だが、「自分の勝利」という事実を、実感が沸かないままでも認識しつつあった俺には、わかりきっていた。
この静かな世界が、「嵐の前の静けさ」でしかないことを。
「や、やっ……!」
そして、その前兆が背後から聞こえてきた瞬間。俺は、ここから始まる大嵐に心から身構えた。
だが、耳までは塞がない。その「大嵐」を聴いてみたい、という心も、俺に芽生えていたのだから。
「やったぁぁぁああぁあぁあッ! 龍太がっ、龍太がっ……! 龍太が勝ったぁぁぁぁああぁあぁああぁあっ!」
「龍太君ッ! 勝ったッ! 勝ったよぉっ! すごいっ!」
「よし……これで五分と五分だな。ひとまずご苦労だった、一煉寺龍太」
「とぉうぜんざますッ! これが龍太様の実力でしてよッ!」
――そう、この歓声という大嵐を。
矢村は手すりの上に立ち、久水のように身を乗り出して全力で両腕を回している。久水の時は全員で止められていたような行為だが、今回ばかりは誰も抑えようとはしていなかった。
比較的冷静な茂さんでさえ、口元が緩みに緩んでいる。若干キモいが、喜んでくれているのなら素直に受け取っておくべきだろう。
『さて、説明は必要かしら?』
「……お願いします。一応、知っておきたい……」
『――わかったわ。では、伊葉氏。お願いします』
勝敗を分けた原因。その説明をするための確認が、四郷姉妹の間で交わされ
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