第111話 着鎧甲冑の矜持
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ナの外へ消えていく彼女の姿は、「幸薄な少女」でしかなかった。
……「手元が狂った」、か……。その原因は考えるまでもなさそうだな。
『……無理……。無理だよ、梢っ……』
――元々戦うために造られた身体であり、救命用というのは建前でしかない。そうだとしても、彼女が五センチ下限の説を知らなかったはずはない。その危険な側面も。
怖かったのだろう。自分にとって掛け替えのない親友を、自分自身の手で壊してしまう。そんな可能性が脳裏を過ぎれば、遠慮がちな胸骨圧迫になったって不思議でもなんでもない。
不思議なのは、むしろ――
「所長さん。俺が質問したいんだけど、いいかな?」
『ええ、何かしら』
――あんただよ、所長さん。
「無粋なことを聞くようだけど、どうして救助対象者のモデルに久水を起用したんだ? 他にいろいろあったように思うけど。第一課目のオッサンとか」
『……あぁ、なるほど。そうね、いろいろ理由はあるけど……一番大きいのは、ヒューマンエラーによる損害レベルの差を測りたかった、ってとこかしら? どんなに優秀なシステムだって、使うのは人間だもの。失敗くらいするでしょ? だったらせめて、「人間のせいで起きちゃう失敗」のレベルが軽い方を採用したくもなるじゃない。減点方式にしたのもそういう理由よ』
――なるほどね。みんなの前だから、おおっぴらには話せないってことなのか。
「二番目は?」
『え?』
「いろいろ理由はあるんだろ。じゃあ、二番目の理由は一体なんだったんだ?」
『……あらあら、ダメな子ねぇ。しつこい男は嫌われちゃうわよ。――まぁ、強いて言うなら……』
――だけど、俺にはわかる。あんたは、「俺を試そう」としてたんだ。四郷を助けられるだけの力が俺にあるかどうかをな。
だから、度胸があるかを確かめた。下手すりゃ仲間を傷付けかねない選択だとしても、「人を救うための」着鎧甲冑としての矜持を保てる度胸を。
『……あの娘にできないことをやってのけるくらいじゃなきゃ、妹は任せられない――ってとこかしら?』
「……なるほど、ね」
『――さぁ、これで残すは第三課目のみ! 丁度お昼時みたいだし、ここで一時間の休憩にするわ。各自、客席でゆっくりして待っててね!』
「あの娘にできないことをやってのけるくらいじゃなきゃ」……か。そいつが聞けて、安心したよ。
どうやら――期待に応えるチャンスはまだあるらしい。
「……」
「……フン」
俺はこちらを悠然と見下ろし、鼻を鳴らしている瀧上さんを一瞥すると、四郷とは反対の方の出入口へ向かう。
……最後の一戦に向けて、俺もちょっとばかし一休みさせてもらうかな。
「りゅ、龍太君ッ!? 『妹を任せる』って、どう
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