第111話 着鎧甲冑の矜持
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る。
この姉妹のやり取りの間に、どこか壁を感じるのは、結果に気まずさを感じてのことなのか、試験だからなのか。それとも――この戦いの先にあるものに、不安を感じているからなのか。
気がつけば、俺はスクリーンに映された映像より、眉間にシワを寄せてそれを凝視する瀧上さんを見つめていた。
『――胸骨圧迫について、最低五センチ以上は圧迫せねばならない、という下限があるのは両者とも知っているだろう。勝敗の分かれ目は、そこにある』
「……」
「圧迫の下限……」
伊葉さんの言葉に釣られて、ようやく視線をスクリーンに戻した俺は、赤い腕や青い腕が、久水人形の胸を圧迫している映像を目の当たりにする。
「い、いやぁあぁんッ! ワタクシの不可侵領域が白日の下にィィィィッ!」
「久水さん抑えて! これは試験、試験なんだから! ……あんなに龍太君に触られて……いいな……」
「一煉寺龍太ァァァッ! やはり貴様には制裁を加えねば――ムググ!」
「今はシリアスな場面やろッ! あんたらちょっとは静かにせぇッ! ……龍太……アタシの尻、また撫でてくれんやろか……」
……も、もう勘弁してください……。
――客席の方から耳の痛くなる叫びが轟いている頃、俺は伊葉さんの口から語られた勝因をぽつりと呟いていた。その時の四郷は、唇をきゅっと結び、無言で成り行きを見守り続けている。
『五センチ以上の圧迫は、普通の人間には厳しい深さであり、力の加減や圧迫箇所を誤れば肋骨を損傷する恐れもある。超人的な力を持つがゆえに長時間の活動が可能な双方の場合は、なおさらだろう』
『……事実、老人に胸骨圧迫を試みた結果、折れた肋骨が肺に刺さり、死に至るケースもあったわ』
『そして、その条件を満たしていたのは着鎧甲冑のみであった。「新人類の身体」が救助対象者を圧迫していた深さは四センチ程度であり、期待された応急救護措置には達しきれていない。迅速な心電図の解析など、他の点においては優位な性能を発揮していたが、人力が必要となる局面で不安要素を残しているようでは、安定した救命システムであると信頼するのは難しい』
伊葉さんの弁を解釈すると、「四郷が胸骨圧迫をちゃんとやっていなかった」ことが俺の勝因であるらしい。確かに、心電図の解析や電気ショックの必要性の判断など、正確な情報を素早くたたき出せるってのは大きなアドバンテージになるだろうけど、「手元が狂いました」じゃ総崩れだからな……。
『説明は以上よ。他にまだ、聞きたいことはある?』
「……いいえ。もう、大丈夫です……」
四郷は優しげな姉の言葉に背を向けると、それだけ答えてアリーナから立ち去っていく。先の見えない闇に向かおうとしているかのように、その歩みはどこか弱々しい。あれほどの力を持っていながら、アリー
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