第109話 試験と人形と揺れる胸
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「こず……え……!?」
信じられないものを見るような目で、眼前に横たわるおっぱ――久水の人形を見詰める四郷。いつもは刃物のように鋭く細い眼差しが、嘘のように大きく見開かれている。そのつぶらな瞳は、普段の彼女とは掛け離れていて――可憐だ。
そして、自分のか細い両腕に抱かれている小さな肩は、猛獣に怯える小動物のように震えていて、第一課目の時のような優雅さからは想像も付かない弱々しさを漂わせていた。
……俺も「凄く驚いてる」って意味では、さほど彼女と変わらない反応をしているのかも知れない。また知らないオッサンのマネキンを持ってこられるのかと思えば、まさかの久水様、だもんなぁ。
「まさか、久水が次の試験のモデルになるとは……。ったく、所長さんは一体何を考えて――ん?」
――いや、ちょっと待て。心肺蘇生法ってことは心臓マッサージや電気ショックに限った話じゃないよな? 人工呼吸も込みなんだよな?
え、ヤるの? 俺ヤッちゃうの? マスク越しとは言え、知り合いの女の子の人形と? それもモデルになってる本人の目の前で?
俺は胃が捩切れそうなほどに気まずくなる考えに至ると、機械のように硬直した動きで首を客席へ向ける。
……あの爛れに爛れたドスケベ淫乱破廉恥ワッショイな久水様が、この状況でまともに恥じらうとは思えない。変な奇声でも上げられたら、こっちの心肺を蘇生してもらわなくてはならなくなる。
四郷も頬を染めてめちゃくちゃ睨んでるし……なんでよりによってこの人を選んじまうかなぁ、所長さん……。
「……あれ?」
だが、振り向いた先には――さらに予想を斜め上に覆す展開が待っていた。
「――む!? こ、梢はどこに行ったのだ!?」
「あらっ!? そういえば久水さんが……!? そんなっ、さっきまでここに居たはずなのに!」
あの一番大暴れ出しそうな久水が、あろうことかその場にいなかったのだ。彼女達のいる客席の辺りを見渡してみると、確かに姿が見えない。
トイレにでも行ったのか……? と、俺が首を傾げていると――
「あ! おったッ! あんなとこで何しよん、あの人ッ!?」
――やけにご立腹な様子で、矢村が声を上げる。本人の物言いからして、久水が見つかったようだが……彼女の指差す先は、こちらの方だったのだ。
こっちに久水がいるって彼女は言ってるのか? 残念だったな、これは久水本人にそっくりな人形――ってアレ!?
「……そっちの人形、いつから二つに増えてたの? ボクも見逃してた……」
四郷の言葉からして、一瞬のことだったのだろう。俺の前で倒れていたはずの久水人形が――二体に増えていらっしゃるッ!
久水が客席にいない。俺の分の人形が二人分に増えている。このことから推察できる
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