第109話 試験と人形と揺れる胸
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変わらずな破廉恥窮まりない発言をブッ放す久水。そして、こちらへにじり寄ろうとする彼女の腕を掴み、顔を赤らめながら目を細めて静止に掛かる四郷。
どちらも、良かれあしかれ「いつも通り」のようであった。まるで、今だけが「コンペティションが終わっている世界」であるかのように。
……にしても、四郷が久水を止める理由を口にする時、やたらと視線を泳がせてたのが珍しかったなぁ。彼女に限ってはありえないだろうけど、思いつきで理由を取り繕っているみたいだった。
「ぶぅー……仕方ありませんわね。――お二人にそこまで言われてしまっては、引き下がるしかありません。では、ごきげんよう」
「それが当たり前だってのッ!」
「……梢、今度やったら、めっ……」
唇を思い切り突き出し、これみよがしにぶーたれてみせた久水は、こちらを一瞥すると妙に清々しく「やりきった」といわんばかりの表情を浮かべ、踵を返して客席への帰路につく。
「あ、それからもう一つ」
次いで、そのまま帰るのかと思いきや、ふと立ち止まるのと同時にこちらへ背を向けたまま、彼女は再び口を開いた。
「なぜワタクシがモデルの人形が出てきたのか。鮎美さんが何を意図しているのか。それはワタクシにもわかりません。ただ間違いないのは、これが『試験』である以上、あなた方は『試されている』、ということです」
「……?」
「見知った人間が救助対象ともなれば、ヒューマンエラーもありうるでしょう。もし、それを乗り越えることこそが試験の目的にあるのだとすれば、あなた方は『呑まれて』はならないのです。そこに寝ている人形がワタクシでも救芽井さんでも矢村さんでも瀧上さんでも、やることは何一つ変わらないのですから」
背を向けて語る彼女の声色は、さっきまでのような猫撫で声とは掛け離れた――騎士のような凛々しさを湛えている。そのギャップに俺が若干困惑している一方で、四郷は唇を噛み締めたまま俯いていた。久水の背から、目を逸らそうとしているかのように。
「今ここで触れ合い、言葉を交わした『久水梢』はここにいます。そこで寝ているのは、ワタクシに『ちょっと』似ているだけの人形でしかなくってよ。それだけは忘れないでくださいな」
そして、その言葉を最後に彼女は歩き出していく。本来居るべき客席の所まで、止まることなく。
……まさか、俺達に「自分を対象に試験を行う」ことを意識させないために、潜り込んだってことなのか? 下手すりゃ試験の根垣を揺るがすレベルのラフプレーなんじゃ――
『うふふ、面白い余興だったじゃない。二人とも、これで俄然やる気になってきたって感じなのかしら? それじゃあ、第二課目に移るわよ!』
――と思いきや、まさかの容認。一部始終を見ていたはずの所長さんは、面白がるかのよう
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