第108話 第二科目の序曲
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単純に俺の肩を持ってくれたのは、矢村と久水だけだったようだ。
久水は激しく胸を揺らしながら語気を強めていたが、言い終える前に茂さんに口を塞がれてしまっていた。その茂さんも、「悔しいが、やむを得ない」といいたげに、沈痛な表情で視線をやや下に落としている。
そして、救芽井はやけに率直に「ダメ」と断じていた。……少なくとも、あの二人にはちゃんと分かっているんだな。俺の、何が敗因に繋がっているのか。
『……それでは、納得の行かない人もいるようですし、説明をお願いします。伊葉氏』
客席の反応が一通り確認できたその直後。静かに諭すような声色で、所長さんのアナウンスがグランドホール全体へと響き渡る。……そうだ。そうだよな。負けたら負けたで、理由はちゃんと教えて貰わなくちゃ。
一本取られたショックのせいか、そんな一番に沸くはずの疑問すら吹っ飛んでいたらしい。伊葉さんの返答を聞こうと首を上げた時には、既に俺の視界の光は「いつも通り」になっていた。矢村と久水の後押しがなければ、こうは行かなかったかも知れない。
『確かに、マニピュレーターのような特殊なアドバンテージを持っていないのにもかかわらず、「新人類の身体」と同等のタイムを出した「救済の超機龍」の身体能力は驚異的だ。装着者の判断自体も迅速さを欠いていたわけではなかった』
「むぐぐ――ぷはっ! で、でしたらッ……!」
『――だが、そのハンデから来る焦りが、救助対象者への配慮という、最優先事項に問題を来す結果を招いた。よって、単純な移動能力に優れていた分、そうした配慮に割ける余裕を持っていた「新人類の身体」の方が優位であると判断した。判断基準を身体能力のみに限定すれば、確かに「救済の超機龍」の方が上であることは間違いない。が、今回の主題は固定装備込みでの移動力にある』
「そ、そんなんアリなんッ!?」
『「新人類の身体」のマニピュレーターは本体に内蔵された固定装備であり、外付けのオプションではない。これを用いて「救済の超機龍」以上に動いていたとしても、「基礎能力」の範疇から外れているとは判断されない』
俺にはないスピードと、それによって生まれる余裕。それが四郷の勝因だと、伊葉さんは語る。
なまじタイムが同じだったために、四郷よりすばしっこく動き回っていたであろう俺の方が、矢村や久水には優秀に見えたのだろう。だが、それは「身体能力だけ」を見た時の話だ。
実際には、スマートに少ない動きで結果を出す方が信頼されるものらしい。救芽井から教わったことが、まさかアダとして出てくるとはな……。
『ここは、実際に見てもらった方がよさそうね』
その時、しばらく「ぐぬぬ」と唇を結んでいる久水と矢村を一瞥していた所長さんが、呆れたような口調と共に何かの操作を始める。
それから僅か
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