第107話 押し寄せる波との戦い
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「オッサンと心中なんて趣味は、ねえんだよぉーッ!」
周りの時間が停止したかのように感じられるほどの速さで、ぐったりと倒れている男性の傍までたどり着いた俺は、焦る気持ちを抑えられないまま瓦礫に手を掛けた。
「あ、あれ!? くそっ……! ふんぬッ……!?」
――だが、どうしたことか。着鎧甲冑のパワーを以てしても、なかなか取り払うことができない。松霧町で活動していた頃は、これよりも数倍大きい貨物トラックを、片手で持ち上げることだって出来たというのに。
そうこうしているうちに、津波がどんどん迫って来ている。瓦礫越しに伺えるその光景が、俺の焦燥をより一層駆り立てた。
「どっ……どうなってんだよッ!? これッ……!」
両手どころか、腰の力も全力で入れてるのに、なかなか持ち上がる気配がない。こんなに重たい物体、一体どこから――ん?
ふと、俺の視界に留まったもの。それは瓦礫の下敷きになっていた、大きな鉄製の物体であった。
「なんだ……これ?」
妙に古びていて、さながら巨大なフックのようにも見えるその物体は、見たところ強烈に瓦礫に食い込んでいるらしく、持ち上げようとしても動かない「原因」である可能性が浮上してきた。
だが……なんなんだコレ? 着鎧甲冑の力でも動かせないフック? そんなもんどこの世界に――
――まさか!?
俺は、反射的に後ろを振り返る。その先に映るのは、あの路面電車のレール。
そこから考えられる、この状況を生み出している元凶。思い当たる節は、一つだけだった。
巨大フックが何処と繋がっているのかを探るべく、俺は辺りの土や小さな瓦礫を跳ね退ける。そして答えは――残酷なほどに予想通りだったのだ。
……脱線事故でも起こしたのか、無惨にもアスファルトの奥に突き刺さり、瓦礫の下に埋められてしまっている、一両の路面電車。
俺の任務遂行を阻んでいた最後の障壁が、これだった。
――脱線した路面電車のフック……もとい連結器が、瓦礫に突き刺さってたってのか!? そんなのアリかよッ……!
だが、ぶーたれている隙などない。既に津波の勢いは目と鼻の先まで迫って来ており、今から逃げ出すチャンスがあるかどうかも怪しくなっていた。
俺はフックが食い込んでいる部分だけを蹴りで破壊し、瓦礫をサッと持ち上げてしまう。瓦礫自体をさっさと砕かなかったのは、救助対象者のオッサンに破片を当てないためだ。
――よし! あとはオッサンを連れて逃げるだけッ!
俺は焦る余り、オッサンの手を引いてそのまま跳び上がり、空中で優しく抱える体制に移行しながら屋上に着地する。
そして、アスファルトを見下ろしてみれば……あっという間に、灰色の濁流が辺り一帯を埋め尽くしてしまっていた。
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