暁 〜小説投稿サイト〜
フルメタル・アクションヒーローズ
第107話 押し寄せる波との戦い
[3/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


 ……それから数秒後。俺の足元のすぐ下を、濁流が渦巻いて大暴れしている。もし、隙間に逃げ込んでからの一連の動きに僅かでも迷いがあったなら、たちまち俺は飲み込まれていただろう。

「落ち着いてるわね……なんとか、津波からは逃れられたのかしら」
「ホ、ホント? やったーっ! グッジョブやで龍太っ!」

 遠くで見つめているであろう矢村が、歓声を上げているのが聞こえて来る。死に物狂いで屋上の端にしがみついていた俺は、そこでようやく命拾いしたのだと、胸を撫で下ろすことが――

 ――できない!

「……ッ! まさか、救助対象者の方にも津波が!?」

 俺はその可能性に気づいた瞬間、自分が助かったことで緩みかけていた緊張感を取り返し、瞬時に屋上へ登り周囲を一望する。
 ――マップによれば……ここからすぐそこじゃねーか!? 間に合うのかよッ……!?

「クッ……だけど、まだ失格扱いはされてない。じゃあ、行くっきゃないよなッ!」

 俺は目的地に向けて一気に駆け出し、そのまま濁流に飲まれたアスファルトを飛び越え、向かいのビルの屋上へ着地する。

 そこからさらに、何度か高所から高所への移動を繰り返し……ついに、視認できる距離までにたどり着いた!

「あ、あれかッ!?」

 ビルから見下ろした先に伺える、倒壊した建物の瓦礫に下半身が埋もれ、横たわっている男性の姿。青い光点の場所からして、あのオッサンが救助対象者と見て間違いなさそうだ!

 だが、あの瓦礫を退かせば終わり……とは行かせてくれないらしい。嫌というほど聞かされ、トラウマになりそうなあの轟音が、この辺りにも響いているのだ。
 倒れている男性がいる道路に迫りつつある、灰色の濁流。さっきのように水が舞い上がるほどの勢いがない分、動きは緩やかだが……それはあくまで「さっきと比べれば」という意味でしかない。速くて危険なのは同じことだ。

「今度は逃げるだけじゃなく、自分から飛び込みに行けってか!? 所長さんもアジなマネしやがるッ!」

 ――だが、何を言おうがここであの男性を助けられなかったら、黒星となってしまうのは事実。俺はせめてもの「八つ当たり」で軽口を叩きつつ、一直線に男性のいる場所目掛けて飛び降りていく。

 なぜか、ここの道路だけ他と違って、路面電車のレールがあるのが気になるが……まぁ、別にいいか。

 みるみる迫ってくる津波を見ていると、ただ地面に着くのを待つしかない「滞空時間」というものが、惜しくて仕方のないものになってくる。出来ることなら、真っ先に逃げ出したくもなる状況なのだから、なおさらだ。
 着鎧甲冑越しに、アスファルトに触れる感触をつま先に感じた瞬間、俺は全体重を前方に傾け、つんのめる寸前という勢いで全力疾走していく。


[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ