暁 〜小説投稿サイト〜
Secret Garden ~小さな箱庭~
『忘れ去られた人々編』
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かす、その動作と連鎖して高等部にあるねじ巻きも僅かに動き回転する。背中に装着した金色の機械で出来た天使のような二枚の羽もぴこぴこと動く。それで飛ぶ事は出来ないが数センチ浮かぶ事なら出来る。

「本日はどのようなご用件で?」
「ヨナの為に本を借りてあげようかなって。いつも寂しい思いをさせているからせめてもの償いでね」
「そうですか。ならこちらの本は如何でしょう」

 取り出したのは分厚い本。表紙には白い花の絵が描かれている。

「この本は? あまり文字ばかりの本はヨナは読まないと思いますよ? でも絵本とか絵ばかりの本はすぐに読み終わっちゃうから沢山借りないといけなくなっちゃうか……」
「その点についてはこちらも了解しています。これは分厚いですが、世界各地に咲く花の絵をまとめそれを紹介している図鑑と呼ばれる本です。前にヨナさんが此処へ遊びに来られた時、熱心に読まれていらしたので、喜こばれると思いますよ」
「そんな、また一人で外出したんですか!?」

 ルシアが出かける前には必ず家で大人しくしていると約束しているのだが、いつもヨナは約束を守らず勝手に外へ遊びに出かけてしまう。図書館は家からさほど遠くはないとは言え病人の身だ、道中でもしなにかあって倒れたりしたら大変だと言うのに、それをヨナは判ってくれない。新しい本が読みたいのなら、いつでもお兄ちゃんが借りて来てあげるのに……と思う気持ちはただのお節介焼きなのだろうか。

「じゃあその本をお願いします」
「はい。では手続きをしますので少々お待ちください」

 背を向け、カタカタと何かを操作する音が響く。数秒後、振り返ったオディーリアから花の図鑑を受けとるとルシアは急いで家路へと帰宅した。
気が付けば外は夕日で茜色に染まっていた。蝋燭の灯りしかないこの村では真っ暗な闇が支配する夜に出歩く事をあまり良しとしていない。

――日が昇れば、人の時間。日が沈めば、獣の時間。村に古くから伝わる言い伝え。これを護らない悪い子は悪い獣が黄泉の世界へと連れ去って喰っちまうぞ! 親が幼い子供に夜歩きを禁じさせる時の言いつけ。それをヨナに今一度言い聞かせないと、とルシアは家路を急ぐ。悪い子はちゃんと叱ってあげないと、それは親のいない子供が父親代わりを頑張る証拠であり、押し潰すように伸し掛かる重圧。自分しかヨナを護れる人はいないんだ。自分だけしか――だがそれはヨナも同じ事。自分だけが兄を幸せにしてあげられるんだ。すれ違う兄妹の想いは皮肉かな。


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