巻ノ百十九 大坂騒乱その八
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「あの御仁ならば必ず果たしてくれる」
「真田殿ですか」
「上田城の戦で活躍した」
「あの方ならばですか」
「果たしてくれますか」
「そう思う、だからな」
大野は周りの者達にさらに話した。
「戦になるならば絶対にな」
「真田殿をですな」
「大坂にお迎えする」
「そうしてですか」
「いざという時は」
「あの御仁に働いてもらってじゃ」
そうしてというのだ。
「右大臣様を助けてもらおう」
「わかり申した、それでは」
「戦が避けられぬならですな」
「その時には」
「真田殿を必ず」
「そう考えておる、それにもう戦はな」
どうなるかについてもだ、大野は話した。
「お主等もわかっておろう」
「はい、もうですな」
「切支丹のことは茶々様は撤回されぬ」
「それならばですな」
「幕府としても看過出来ませぬな」
「そうじゃ」
それ故にというのだ。
「もう幕府との戦は避けられぬ」
「だからですな」
「ここは覚悟を決めて」
「戦の用意をしますか」
「今から」
「片桐殿とは考えが何処までも違っておったが」
それでもとだ、大野は大坂を警護の兵達に護られつつ去っていく片桐を見て惜しむ様な顔を見せた。
そのうえでだ、こうも言った。
「しうかしな」
「決してですな」
「お嫌いではなく」
「認められるところはですな」
「認められていましたな」
「大坂の為に必死にな」
力を尽くしてというのだ。
「働いておられた、それは紛れもない事実であった」
「だからこそですな」
「今大坂を去られることが」
「どうしても無念ですか」
「わしは茶々様に逆らえぬ」
自分でもこのことはわかっていた、幼い頃より彼女と共にいてその忠義を超えた親愛の情が強過ぎるからだ。
「片桐殿は何とか申し上げることは出来たが」
「しかしですな」
「それでも茶々殿は聞かれず」
「それで、ですな」
「片桐殿も去られた」
「そうなりますな」
「そうじゃ、結局大坂に茶々様を止められる者はおらぬ」
一人もだ、かつては石田や大谷といった者達がいたがその彼等も関ヶ原において散っている。
それでだ、大野は今度は無念の顔で述べた。
「わしもその力がない、それ故にな」
「戦になり」
「そしてですか」
「このままでは」
「茶々様は戦のことにも口出しをされる」
彼女の性格からだ、間違いなくそうしてくるというのだ。
「しかしあの方は政もご存知ないし」
「戦は尚更ですな」
「兵法の書なぞ読まれたこともありませぬ」
「その目で戦を御覧になられたこともない」
「それで些細なことでもご存知の筈がないですな」
「そうじゃ、しかしそれでもじゃ」
茶々、彼女はというのだ。
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